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NIKKEI NET

社説1 「財政調整」が招いた健保組合の解散(8/22)

 西濃運輸(岐阜県大垣市)などセイノーホールディングスのグループ企業が運営する健康保険組合が、今月1日に解散していたことが明るみに出た。不動産賃貸業などを手がけるカワボウ(岐阜市)も7月1日に健保組合を解散した。高齢者医療費を賄う拠出金を工面するための保険料負担の重さに耐えかねて、経営側が解散を決断したとみられる。

 2008年度に入って解散した健保組合はこれで12組合になった。健保組合の解散は、景気の長期低迷に見舞われ企業の経営破綻が増えた1990年代後半から2000年代前半にも目立った。今回の解散はそうした景気要因より制度要因によるところが大きい。今後も解散に踏みきる企業が相次ぐ可能性もある。

 高齢者医療制度には健保組合などから高齢者の比率が高い国民健康保険へ資金を一方的に移す「財政調整」の名のもとに、負担と給付との関係がはっきりしない面がある。

 これが企業経営者らが制度に不信感を持つ一因になっている。政府は負担と給付との関係を明確にするとともに、とくに年齢構成の若い健保組合に過度な負担を押し付けることのないようにすべきだ。たとえば高齢者医療費を賄う財源として、税金の投入割合を増やす選択肢も検討する必要があろう。

 政府は今年4月、75歳以上の人を対象とする後期高齢者医療制度を新設した。同時に、65―74歳をカバーする前期高齢者医療制度を整えた。健保組合などが拠出する負担金は当面、後期高齢者の医療給付費の4割と定めた。以前の老人保健制度への拠出金に上限がなかったのに比べると、現役世代の負担に枠をはめたという点で評価できる。

 問題は前期高齢者だ。高齢者比率が高い市区町村の国保と、健保組合など現役比率が高い被用者保険との間で財政調整して給付費を賄う仕組みにした。年齢構成の若い企業の健保組合は相対的に負担が重くなり、保険料率の大幅引き上げを余儀なくされたところが多い。そうした組合からは経営努力をしても焼け石に水だ、高い料率を払って組合を維持する理由はない、政府管掌健康保険に移ったほうが経営側も従業員も楽になる――などの声も出ていた。今回の解散劇でそれが現実になった。

 社会保険庁が運営する政管健保には今年度予算ベースで約8100億円の国費が入っている。健保組合の解散がさらに広がれば政管健保の加入者増によって国費負担がかさむ。不透明さがぬぐえない財政調整の弊害の一端といっていいだろう。

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