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NIKKEI NET

社説2 米ロ関係の冷却化を懸念する(8/22)

 米国とポーランドが米ミサイル防衛(MD)施設の配備で合意し、協定文書に調印した。MD計画は実現へ動き出したが、今回の合意はロシアをけん制する色彩が濃い。グルジア紛争で対立を深める米ロ関係の一層の冷却化が懸念される。

 米国のMD計画はポーランドに迎撃ミサイル基地、チェコにレーダー施設を配備し、イランなどの核攻撃の脅威から欧州を守るのが狙いだ。チェコとは合意済みで、2012年までの一体運用を目指している。

 ポーランドとの交渉は難航してきたが、米国は有事の防衛支援を約束。MD計画と別に、ポーランドの防空能力強化につながる地対空誘導弾パトリオットの供与を決めた。

 交渉が急進展した主因はグルジア紛争である。グルジア領の南オセチア自治州の分離独立問題でロシアとグルジアが軍事衝突し、ロシアはグルジア領内まで軍事侵攻した。

 東西冷戦時代、ソ連軍がブレジネフ・ドクトリン(制限主権論)に基づき、チェコスロバキアに軍事侵攻して民主化運動を弾圧した「プラハの春」から、ちょうど40年。旧東欧諸国はロシア軍のグルジア侵攻を当時と重ね合わせ、米国は急速に高まるロシア脅威論を利用した。

 MD計画を巡って米国はロシアの核抑止力に打撃を与えないと強調してきたが、ロシアは猛反発している。米ロの溝は決定的に深まった。

 米国はグルジア紛争で米ロ対立が先鋭化した時期に、あえてMD配備の合意を急ぐ必要があったのか。疑問は残るが、ロシアにも責任がある。グルジア領内に軍事侵攻し、停戦合意後も駐留を続ける態度が周辺国の疑念を招くのは当然である。

 グルジア紛争でロシアが不発弾被害の深刻なクラスター爆弾を使用したとの人権団体の報告もあり、国際社会のロシア不信は根強い。紛争でロシアの株式相場は急落し、代表的なRTS指数は一時、06年11月以来の安値を付けた。強権姿勢はロシアにとっても利益にならない。

 米ロの対立はテロとの戦いや核軍縮、イランや北朝鮮の核開発疑惑、地球温暖化対策など国際社会が直面する課題での協調にも大きな影響を与える。時代に逆行する冷戦の再来は避けるべきである。

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