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社説:景気対策減税 選挙目当てで制度はゆがむ

 政府が策定を進めている総合景気対策で、減税の扱いが焦点になっている。

 公明党が求めている低所得層を対象にした定額減税と、麻生太郎自民党幹事長が提唱し、福田康夫首相も乗り気になっているという一定金額までの株式配当を非課税にする措置である。

 いずれも、秋の税制改革論議の中で検討される。景気対策といっても、財政出動などに目玉が見当たらないだけに、与党内では総選挙や来年の都議選に向け、減税への期待は高い。

 それでいいのだろうか。

 秋以降の政府税調や自民党税調では、財政健全化の促進や社会保障制度の再建などを実現するため、抜本税制改正の論議をすることになっている。それが、選挙目当ての人気取り減税を正当化する場になりかねないのだ。また、場当たりの減税措置によって、税制のゆがみは拡大する。

 金融・証券税制はその典型である。預金利子や配当などへの課税は基本的に20%である。しかし、家計貯蓄を預貯金から株式や債券などに誘導することや、証券市場の活性化などを目的に、上場株式の譲渡益や配当への税率は10%に軽減されている。この特例措置は10年いっぱいで廃止されることになっている。

 利子・配当課税の20%への一本化とともに検討されているのが、金融所得の一体課税である。最終的には、株式や投資信託、債券の配当、譲渡所得のみならず、預金利子も一体化した上で、株式投資などに伴う損失を控除し課税するという仕組みだ。政府税調、与党税調ともに、この方向で議論が進んできた。

 配当の非課税化構想はこの流れに逆行している。株式市場への資金流入を促す施策だというが、家計の株式投資が活発化する保証はない。税制がいびつになるマイナスの方が大きい。

 定額減税も所得税を対象にする限り、課税最低限以下の世帯には恩恵がない。そこで考えられるのが、無所得や低所得の世帯に商品券などの方法で定額の給付を行う手法だ。かつての地域振興券と似たやり方だ。

 詰まるところ、税というよりは、財源をどこに求めるかの問題だ。

 個人所得税減税は需要喚起策としては優れている。ただ、そのためには、所得税が名実ともに基幹税で、課税も適正に行われている必要がある。正しい所得把握は当然のことだ。

 公共サービスの水準を引き上げるためには、個人所得税の水準もそれに見合っていなければならない。果たして、日本の所得税はそうなっているのか。再配分機能を重視する体系にするのであれば、負の課税も考えなければならない。

 こうしたことを議論するのが抜本税制改正のはずだ。選挙目当ての減税策で制度をゆがめる愚を犯してはならない。

毎日新聞 2008年8月22日 東京朝刊

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