福田康夫首相が政府与党連絡会議で次期臨時国会の召集時期を「九月中旬」とする考えを示したものの、具体的な召集日の決定は先送りされた。総選挙をにらんだ公明党との思惑の違いが影響している。

　首相は、海上自衛隊によるインド洋での給油活動継続のため新テロ対策特別措置法改正案を衆院再議決で成立させることを想定し、九月上旬の召集を検討していた。給油継続や緊急経済対策、消費者庁設置の取り組みなどを進め、次期総選挙に向けて徐々に福田カラーを打ち出していく考えだろう。

　公明党は総選挙前の国会混乱を警戒し、衆院再議決には慎重な構えだ。これまで九月下旬の国会召集を求めてきた。一方、衆院解散は年始までに、との立場である。重視する来年夏の東京都議選と衆院選の間隔をできるだけ取り、都議選に全力を注ぎたいという事情も影響しているようだ。

　九月中旬召集は折衷案ともいえるが、連立与党内の駆け引きで具体的な召集日や会期を決められない状況は情けない。国のかじ取りの場として、国会が役割を果たさなければならない時だからだ。

　日銀が十九日、金融政策決定会合を開き、景気の現状判断を七月の「さらに減速」から「停滞している」に下方修正した。景気が後退局面に入ったことを事実上認めたといえ、ひと足早く同様の判断を示していた政府と足並みをそろえた。

　米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発した世界経済の混乱は続き、資源高も加わって日本経済に重くのしかかっている。景気をけん引してきた輸出が米国経済の減速で減少し、もともと弱かった消費を物価高がさらに冷え込ませている。

　景気は重大な局面にあり、国民生活が脅かされている。手をこまねいてはいられない。これ以上の下振れを食い止め、経済を立て直していくことが喫緊の課題である。

　首相は緊急経済対策について今週中に政府案をまとめ、来週には政府、与党で決定する方針を示している。景気を浮揚させるために、規制緩和や外資の導入など幅広い視野で徹底的に方策を練っていく必要があろう。国会を早期に開会し、真剣な経済論戦を展開すべきだ。

　与野党の議員が必死で考え、活気ある論戦を繰り広げる意味は大きい。政治家の意気込みは民間を奮い立たせるだろうし、力のある日本が景気対策に挑む姿勢を示すことは世界経済にも好影響を与えよう。

　福島県大熊町の県立大野病院で二〇〇四年、帝王切開で出産した女性が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医に対し、福島地裁は無罪を言い渡した。

　故意や明白なミスでなく、通常の医療行為について執刀医の逮捕、起訴に踏み込んだ今回の捜査は異例のケースだった。医療界からは「刑事司法の不当介入」と猛反発を招いた。判決は臨床現場の実態や医師の裁量を重視したものといえよう。

　最大の争点は胎盤をはがす「はく離」を被告が続けた判断の是非だった。判決は「標準的な医療措置で過失はなかった」とし、医学書の記述を根拠に「直ちに子宮摘出に移行すべきだった」と主張する検察側の言い分を退けた。「異状死」なのに二十四時間以内に警察に届けなかったとして医師法違反罪にも問われたが、判決は「死亡は避けられない結果で報告義務はない」とした。

　出産をめぐっては、医療側の過失を理由に損害賠償請求訴訟が多発している。危険な出産にかかわるのを避ける産科医が増えており、大野病院事件は全国的な産科医不足に拍車を掛けたとされる。しかし、それでは患者は必要な医療を受けることができなくなる。患者と医療側の相互不信をなくしていかなければいけない。

　厚生労働省は、中立的な立場で医療事故の調査に当たる第三者機関「医療安全調査委員会」設置に向けて準備を進めている。警察の捜査や裁判では個人の責任追及に力点が置かれる。自己に不利な証拠は出さなくなるため、必ずしも真相究明につながらない。医療事故の原因を探り、再発防止につなげていくために、被害者、医療側双方が納得できる調査委の創設を目指すべきだろう。