医療介護CBニュース -キャリアブレインが送る最新の医療・介護ニュース-

CBネット |  医療介護CBニュース

倒産・事件事故


大野病院事件判決要旨(3)

第5 被告人が行った医療措置の妥当性・相当性、結果を回避するための措置として剥離行為を中止して子宮摘出手術に移行すべき義務の有無
1 検察官は、子宮摘出手術等への移行可能性とこれによる大量出血の回避可能性があることを前提とした上で、被告人は、遅くとも用手剥離中に本件患者の胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点で、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行し、大量出血による本件患者の生命の危険を未然に回避すべき注意義務があったとするので、移行可能性、回避可能性について検討した後、医学的準則及び胎盤剥離中止義務について検討する。
2 子宮摘出手術等への移行可能性について
 被告人が胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点においては、本件患者の全身状態は悪くなく、意識もあり、子宮摘出同意の再確認も容易な状況にあった。
したがって、手術開始時から子宮摘出手術も念頭に置いた態勢が取られていたこと等に鑑みれば、検察官が主張するとおり、同時点において、被告人が直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することは可能であったと認められる。
3 移行等による大量出血の回避可能性
 一般論として、通常の胎盤剥離の出血量よりも前置胎盤の剥離の出血量の方が多く、それよりもさらに前置胎盤と癒着胎盤を同時に発症している胎盤の剥離の出血量の方が多いことが認められる。
 本件において、クーパー使用開始直前時点までに被告人が用手剥離によって剥離を終えていた胎盤は、後壁部分と考えられる部分のおよそ3分の2程度であり、胎盤全体との関係では3分の1強程度である。この剥離部分は、用手剥離で剥離できた部分で、そこからの出血はあまり見られず、出血が多かったのは、その後、被告人がクーパーを使用して剥離した後壁下部であったこと、病理学的にも癒着胎盤と認める根拠に乏しい部分であることから、この剥離部分からの出血量は、いわゆる通常の胎盤の剥離の場合の出血量と同程度と推認される。
 そうすると、胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合である本件の出血量が著しく大量となっていることと比較すれば、相当に少ないであろうということは可能であるから、結果回避可能性があったと解するのが相当である。
4 医学的準則及び胎盤剥離中止義務について
(1)検察官の主張
 検察官は、移行可能性と回避可能性がいずれもあることを前提とした上、さらに、胎盤剥離を継続することの危険性の大きさ、すなわち、大量出血により、本件患者を失血死、ショック死させる蓋然性が高いことを十分に予見できたこと、及び、子宮摘出手術等に移行することが容易であったことを挙げ、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であり、本件において、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張する。そして、上記医学的準則の根拠として、医学書、及び、C医師の鑑定(C鑑定)を引用する。
(2)弁護人の主張
 これに対し、弁護人は、癒着胎盤で胎盤を剥離しないのは、@開腹前に穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたもの、A開腹後、子宮切開前に一見して穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたもの、B胎盤剥離を試みても癒着していて最初から用手剥離ができないものであり、用手剥離を開始した後は、出血していても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合に子宮を摘出するのが我が国における臨床医学の実践における医療水準であると反論する。
(3)産科の臨床における医療措置
ア 本件では、癒着胎盤の剥離を開始した後に剥離を中止し、子宮摘出手術等に移行した具体的な臨床症例は、検察官側からも被告人側からも提示されておらず、また、当公判廷において証言した各医師も言及していない。
イ 次に、上記医師らのうち、C医師のみが、検察官の主張と同旨の見解を述べるが、同医師が腫瘍を専門とし、癒着胎盤の治療経験に乏しいこと、同医師の鑑定や証言は、同医師自ら述べるとおり、自分の直接の臨床経験に基づくものではなく、主として医学書等の文献に依拠したものであることからすれば、同医師の鑑定結果及び証言内容を、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置、あるいはこれを基準とした事案分析と理解することは相当ではない。
ウ 他方、上記医師らのうち、D及びE医師の産科の臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさは、その経歴からのみならず、証言内容からもくみ取ることができ、少なくとも、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は、医療現場の実際をそのまま表現しているものと認められる。また、中規模病院に勤務するF医師も同様の見解を述べる。
 そうすると、本件では、D、E両医師の鑑定ないし証言等から、「開腹前に穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたものについては胎盤を剥離しない。用手剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合には子宮を摘出する。」ということが、臨床上の標準的な医療措置と解するのが相当である。
エ 医学書の記載
医学書に記載された癒着胎盤の治療及び対処法をみると、用手剥離にとりかかる前から嵌入胎盤、穿通胎盤であることが明確である場合、あるいは剥離を試みても全く胎盤剥離できない場合については、用手剥離をせずに子宮摘出をすべきという点では、概ね一致が見られる。しかしながら、用手剥離開始後に癒着胎盤であると判明した場合に、剥離を中止して子宮摘出を行うべきか、剥離を完了した後に止血操作や子宮摘出を行うのかという点については、医学書類から一義的に読みとることは困難である。

大野病院事件判決要旨(4)に続く


更新:2008/08/21 20:52   キャリアブレイン


このニュースをメールで送る

ご自身のお名前:


送信元メールアドレス(ご自身):


送信先メールアドレス(相手先):


すべての項目にご記入の上、送信ボタンをクリックしてください。

CBニュースからのお知らせ

CBニュースは会員サービスの“より一層の充実”を
図るため、9月上旬より、掲載後一定期間経過した
記事の閲覧にログインが必要となります。

今後ともCBニュースをご愛顧いただけますよう、
よろしくお願い申し上げます。

ログイン-会員登録がお済みの方はこちら-

キャリアブレイン会員になると?

転職支援サービス

専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート

スカウトシステム

医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能

医療介護ニュース

独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!

キャリアブレインの転職支援サービスが選ばれる理由

【第24回】高橋洋一さん(東洋大経済学部教授) 政府は来年度の予算編成で、真に必要なニーズに財源を重点配分する「重要課題推進枠」を設ける一方、医療や年金など社会保障関係費の自然増については、従来通り2200億円の削減を決めた。社会保障費の削減に対しては、医療界からの反発が強いものの、財政再建型路線は ...

記事全文を読む

医療法人社団斗南堂・八王子クリニック(東京都八王子市)ミディアム・テンション≠大事に仕事と家庭を両立 医師・看護師の厳しい労働実態が社会問題化し、医療現場の環境改善が重要な課題になっている中、「生活を大切にしながら働ける」医療機関が、東京都八王子市にある。医療法人社団斗南堂・八王子クリニックだ。 ...

記事全文を読む

夏の健康管理に気をつけて!

各地で「猛暑日」となる気温35度を記録するなど、今年の夏も暑い日が続いています。体調を崩さない為に夏の健康対策をどうすればいいか、医師に尋ねました。

>>医療番組はこちら


会社概要 |  プライバシーポリシー |  著作権について |  メルマガ登録・解除 |  スタッフ募集 |  広告に関するお問い合わせ