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倒産・事件事故


大野病院事件判決要旨(2)

第4 予見可能性
1 当事者の主張
(1)検察官は、被告人は、手術前の検査で、本件患者が帝王切開手術既往の全前置胎盤患者であり、その胎盤が前回帝王切開創の際の子宮切開創に付着し、胎盤が子宮に癒着している可能性が高いことを予想していた上、帝王切開手術の過程で、子宮表面に血管の怒張を認め、児娩出後には臍帯を牽引したり子宮収縮剤を注射するなどの措置を行っても胎盤が剥離せず、用手剥離中に胎盤と子宮の間に指が入らず用手剥離が不可能な状態に直面したのであるから、遅くとも同時点で胎盤が子宮に癒着していることを認識したと主張する。
 そして、被告人は、癒着胎盤を無理に剥がすと、大量出血、ショックを引き起こし、母体死亡の原因になることを、産婦人科関係の基本的な医学書の記載等から学び、また、手術以前に、帝王切開既往で全前置胎盤の患者の手術で2万ml弱出血した事例を聞かされていたのであるから、癒着認識時点後に、胎盤の剥離を継続すれば、子宮の胎盤剥離面から大量に出血し、本件患者の生命に危険が及ぶおそれがあることを予見することが可能であったと主張する。
(2)これに対し、弁護人は、被告人は、癒着胎盤であることを認識していなかった上、仮に癒着胎盤であることを認識したとしても、前置胎盤及び癒着胎盤の場合、用手剥離で出血があることは当然であり、出血を見ても剥離を完遂することで、子宮収縮を促して止血を維持し、その後の止血措置をするのが我が国の医療の実践であるから、大量出血を予見したことにはなり得ないと主張する。

2 被告人の癒着胎盤の認識について
(1)被告人の手術直前の予見、認識
 手術に至るまでの事実経過に照らすと、被告人は、手術直前には、子宮を正面から見た場合に、胎盤は本件患者から見て左側部分にあり、前回の帝王切開創の左側部分に胎盤の端がかかっているか否か微妙な位置にあると想定し、本件患者が帝王切開手術既往の全前置胎盤患者であることを踏まえて、前壁にある前回帝王切開創への癒着胎盤の可能性を排除せずに手術に臨んでいたが、癒着の可能性は低く、5パーセントに近い数値であるとの認識を持っていたことが認められる。
(2)被告人の手術開始後の予見、認識
ア 血管の怒張について
 本件患者の腹壁を切開し子宮表面が露出された際、子宮前壁の表面に血管の怒張が存在したことが認められる。この点につき、検察官は、癒着胎盤の特徴として、子宮表面に暗紫色の血管の怒張が見られるとする。
 しかしながら、被告人は、これにつき前置胎盤患者によく見られる血管であり、癒着胎盤の兆候としての血管の隆起とは異なる旨診断したと供述しており、当該診断が不自然であるとは認められない。
 したがって、上記血管の怒張を見た段階で、被告人が、前述のとおりの術前の癒着の可能性の程度に関する認識を変化させたと認めることはできない。
イ 胎盤の用手剥離を試みたが、胎盤と子宮の間に指が入れることができなくなったことについて
 被告人は、用手剥離中に胎盤と子宮の間に指が入らず用手剥離が困難な状態に直面した時点で、確定的とまではいえないものの、本件患者の胎盤が子宮に癒着しているとの認識をもったと認めることができる。
 しかしながら、前回帝王切開創部分に癒着胎盤が発生する確率が高いのは、前回帝王切開瘢痕部付近は脱落膜が乏しいためと考えられており、この理由は子宮後壁部分の癒着には当てはまらない。したがって、被告人が有していた前壁の癒着の程度の予見、認識が、段階的に高まって癒着剥離中の癒着の認識に至ったと考えることはできない。
3 大量出血の予見可能性について
 癒着胎盤を無理に剥がすことが、大量出血、ショックを引き起こし、母体死亡の原因となり得ることは、被告人が所持していたものも含めた医学書に記載されている。したがって、癒着胎盤と認識した時点において、胎盤剥離を継続すれば、現実化する可能性の大小は別としても、剥離面から大量出血し、ひいては、本件患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあったと解するのが相当である。

大野病院事件判決要旨(3)に続く


更新:2008/08/21 20:51   キャリアブレイン


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