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仕事のやりがいと母の責任のはざまで

救急医療の最前線で活躍するフライトドクター

フライトドクターのやりがい

 普段は通常の救急外来をこなしながら、交代でドクターヘリ担当としてスタンバイ。要請があり次第、わずか数分で出動する。これは、肉体的にも精神的にも、かなりきつい仕事だ。
 そもそも救急医は、専門性を磨きにくいうえに繁忙さが敬遠され、希望者は多くない。ヘリで現場に出動するフライトドクターはさらに負担が大きく、手を挙げる医師はいっそう少ないのが実態だ。

 奥村さんは、5歳の男の子の母親であり、同じく救急の世界で働く医師である夫は今、九州に単身赴任中だという。だから毎朝、保育園に子どもを送り、そのまま病院へ。夕方、子どもを迎えに行って、また病院に戻る。子どもを病院内で待たせて、仕事を続けるのだ。場合によっては、仕事が終わるのが夜の10時を過ぎる日もある。

 それほど大変な環境で、なぜ頑張れるのか。いちばんの理由は、ドクターヘリの社会的意義もやりがいも、それだけ大きいと感じているからだ。
 「本当にギリギリのケースがあるんです。ドクターヘリで患者さんのところに急いで飛んで、すぐに治療を始められたからこそ助かったんだなあ、ということが…。そういうとき、『ドクターヘリがあって良かった!』と心から思います」
 ドクターヘリに携わったおかげで、通常の救急とは違う視野を持てたこともありがたい、と言う。

 通常の救急は、患者が搬送されてくるのを病院で待つ。だが、フライトドクターは病院を出て、患者のところに自ら出向く。そこでは、消防署員がヘリの着陸場所を確保していたり、周囲の住人への説明に走り回っている。一般人のなかにも、点滴用の器具を持ってくれるなど、進んで手伝ってくれる人がいる。
 「そういった姿を見ていると、私たちが救急の仕事をできるのは、いろいろな人のおかげなんだということを実感するんです。病院に閉じこもっていたら経験できないことも多いですね。それに、ずっと病院内にこもりっきりだと精神衛生上、良くない。ヘリで出動して外部の人と接触すると、気分的にかなり変わります」
 そう語る奥村さんは、フライトドクターが性に合っているのかもしれない。

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奥村澄枝さん

(おくむら・すみえ)

川崎医科大学附属病院 高度救命救急センター医師
1969年生まれ。94年3月、久留米大学医学部を卒業し、同大付属病院の救命救急センター助手。99年3月、久留米大学医学部大学院修了。その後、九州大学医学部附属病院麻酔蘇生科に在籍時、結婚。03年1月に長男を出産。聖路加国際病院救急部を経て、04年4月、順天堂大学医学部附属静岡病院の救急診療科でドクターヘリの立ち上げに参加。07年7月から川崎医科大学附属病院。数少ない女性フライトドクターとして活躍中。


No.35(2008年10月号)

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