まえがき
少年は未来を、中年は現在を、そして老年は過去を思う。
私も老人の部類にはいる大正の生まれ。時折、しきりと過ぎ去ったことが思い出されてならない。
この年ごろになると、どうしたことか若かったときの事柄が、まだつい昨日のことだったかのように鮮明に我が脳裏に浮かびあがってくる。
私と同じ年ごろの人たちの記録のなかで、中心となるのは、なんといっても、長く続いた戦争に関するものであろう。
これについては、既に万巻の書が出されており、もう語りつくされかけているといってよい。
我々の体験した戦争の時代を肯定するもの、あるいは否定するもの、純粋に客観的な立場をとり、その評価を後世の歴史家に委ねようとするものといろいろある。
私は、こうしたものから一歩距離をおいて、白分で体験したこと、周辺で起きたことを忠実に伝えることに重点をおきたい。