世界の金融市場を激震が襲った日から1年余りがたった。いわゆるサブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)問題である。フランスの金融グループが傘下ファンドを凍結し解約を停止すると発表したのが引き金となって、信用不安が一気に世界に広がったのが昨年の8月9日だった。米国内の不良債権問題と見られてきた「サブプライムローン」はこの日を境に国際語になった。
この間、さまざまな対応策が取られてきた。合計で40兆円超とされる大手金融機関の損失処理、中央銀行による異例の金融機関支援、そして米国でスピード成立した包括住宅法などである。だが、トンネルの出口はいまだに見えない。
出口どころか、金融機関の業績悪化への懸念が再び台頭している。影響は実体経済に及び、景気後退の暗雲が日本も含め世界全体に広がってきた。痛手を少しでも軽度に抑え、早期の好転を促すために、震源となった米国には抜本策の実行を急いでほしい。
速やかな対応が求められる分野は大きく二つある。一つ目は米国の巨大な政府系住宅金融会社、ファニーメイとフレディマックへの支援だ。2社で住宅ローン市場の約半分を支える大きさゆえに、破綻(はたん)は許されないとして、新住宅法には公的支援が盛り込まれた。税金を使った資本注入も可能になったわけだが、実際に政府が介入するのかどうかは不透明なままだ。
ファニーとフレディの2社はあくまで自力で資本を増強し立て直しを図ろうとしている。しかし、それは極めて困難だとの見方が、専門家の間で日々強まっている。半官半民の金融機関がこれほど巨大化したままでよいのかといった根本的な問題も残ったままだ。中ぶらりん状態は市場の混迷を一層深刻化させている。税金による救済は政治的に不人気だろうが、次の政権への先送りは許されない。
もう一つ肝心なことは、米国での住宅価格下落に歯止めをかけることだ。住宅価格が下げ止まらないことには、金融機関の損失も止まらず、資本を増強しても新たな損失の穴埋めに消えてしまうだけである。
ローンの返済が滞り、金融機関が住宅を差し押さえる件数は増え続けており、住宅価格を一段と押し下げている。この差し押さえをできるだけ減らそうと、新住宅法には、政府保証付きローンへの借り換え策が盛り込まれた。米当局と銀行には、細則の決定など具体的な作業に全力を挙げてもらいたい。
日本で銀行の不良債権問題が深刻化したとき、「処理の先送りは結果的に傷を広げ、国民負担を増やすだけだ」と忠告してくれたのは米国だ。今回の処理の遅れは、世界経済をも道連れにする。米国には世界的景気後退の回避に努める責務がある。
毎日新聞 2008年8月21日 東京朝刊