◎STEP21戦略会議 6年はあっという間だ
北陸新幹線の開業効果を最大限に引き出すため、県が「STEP21戦略会議」をスタ
ートさせたのを機に、二〇一四年度末とされる新幹線開業へ向けた取り組みを加速させたい。六年間はあっという間であり、残された時間は少ない。県や金沢市など各自治体はスピード感をもって地域の魅力に磨きをかけてほしい。
北陸新幹線の金沢開業は、今まで経験したことのない変化をこの地域にもたらすことに
なる。ふるさとの未来を左右する歴史的な転換点と言ってよいだろう。劇的な変化をプラスに変え、開業効果を息切れさせずに持続させるためには、首都圏から人やモノを吸い寄せる強力な磁力が不可欠である。
とりわけ当面の終着駅となる金沢駅舎の整備は重要である。もてなしドームや鼓門は完
成したが、新幹線開業時の姿はまだ明確にはなっていない。日本を代表する城下町の玄関口としてどのような姿がふさわしいのか、事業主体となる鉄道建設・運輸施設整備支援機構と早急に詰める必要がある。
今年は金沢城跡が国史跡、主計町も国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれ、今年度
内には前田家墓所の史跡指定も見込まれる。金沢経済同友会の提言に背中を押され、城下町の財産については文化財の価値を高める取り組みは着実に広がってきた。そこで急務となるのはクモの巣のように張り巡らされた中心部の電線類撤去である。これらを放置したままでは、せっかく磨きをかけた城下町の財産価値も半減しかねない。
来年度から金沢市では無電柱化推進の新たな五カ年計画が始まる。新幹線開業へ向け、
極めて重要な期間である。国や県、市は、歴史的景観の創出と無電柱化は一体の取り組みと認識し、市が検討する低コスト工法などを組み合わせ、「金沢方式」によるスピードアップを目指してほしい。
「STEP21」が策定するアクションプランでは、金沢から県内全域への開業効果の
波及が大きな課題となっているが、肝心の県都が首都圏に人やモノを吸い取られるストロー現象に悩まされては元も子もない。県都を強くし、その勢いを能登や加賀に広げる手立てをしっかり考えていきたい。
◎産科医に無罪判決 医療事故調の発足を急げ
帝王切開で出産した女性をミスで死なせたとして産婦人科医が業務上過失致死と医師法
違反の罪に問われた福島県の県立大野病院事件で、福島地裁が被告の医師に無罪を言い渡した。二〇〇四年に起きたこの出来事をめぐり、執刀医の逮捕も起訴も不当だとして医療界や関連学会が猛反発したばかりでなく、出来事を機に産婦人科医の産科離れが全国的に一気に進んだことでも注目された裁判だった。
厚生労働省も、医療分野の出来事をいきなり刑事事件として捜査することのまずさに気
づき、中立的な調査委員会で原因を究明し、再発防止に生かしたいとして医療版の「事故調査委員会」創設に取り組んでいる。今年四月には第三次試案を公表し、日本医学会の支持をおおむね取り付け、最終案のまとめの段階を迎えている。判決を踏まえて医療事故調の発足を急いでほしいものだ。
もちろん、検察側の判断によって高裁、最高裁までいく可能性が否定できない。が、福
島地裁の判決はよくできている。すなわち、一刻を争う切迫した状況の下で、非常に難しい判断を迫られる医療現場や、医療措置の在り方から医師の判断に誤りがあったとはいえないとしている。
子どもは助かったが、亡くなった女性は極めてまれな子宮に胎盤が強く癒着した例だっ
た。が、処置の極めて難しい例でも、担当医が責任を追及されることが多いため、たとえば、昭和大医学部の産婦人科講座の岡井崇・主任教授は自らの体験もまじえた物語「ノーフォールト」を著した。
医師に神のごとき完全さを求め、期待に反すると訴訟に踏み切る風潮に反省を求め、そ
うした風潮が結果として医師と患者の遺族を苦しめる現実を生み出していると指摘し、医療過誤がなくても遺族に補償を与える制度の必要性を提起している。
病気や医療の困難を無視した責任追及は危険を避ける医師を増やす。産科医不足はそれ
だろう。これでは日本の医療が崩壊する。病んだ現実への処方せんとなる医療事故調の最終案を期待する。