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フランス:事故相次ぐ原発関連施設 放射能漏れ、波紋広がる

 電力の約8割を原子力発電に依存するフランスで7月、原子力関連施設の放射能漏れ事故が3件相次いだ。仏原子力安全庁は軽度の事故としているが、原発輸出を強力に進めるフランスでの事故だけに波紋が広がっている。ウラン溶液が河川に流出し、農作物補償などの訴訟問題に発展している仏南部トリカスタン原発(加圧水型90万キロワット4基)の周辺を歩いた。【トリカスタンで福井聡】

 ◇売れない農作物

 「地下水汚染がどれほど影響するか分からないが、散水が禁じられた2週間で作物の生育は衰えた。誰も私の作物を買おうとしない」。同原発の南側で麦や野菜畑計18ヘクタールを耕作する農業、エイマールさん(35)は天を仰いだ。

 事故は7月7日に起きた。同原発のウラン貯蔵施設を管理する「ソカトリ」の施設からウラン溶液が流出し、近くのガフィエール川に流れ込んだ。周辺の地下水にも浸透したが、仏原子力安全庁は「微量で環境汚染の恐れはない」とし、世界的な原発事故基準で8段階の下から2番目の「レベル1」とした。

 これに対し、地元ボレーヌ市は8月4日、裁判所にこの被害認定を不服として、再認定するよう提訴した。

 ソカトリの親会社で、フランスの原発を独占的に建設する「アレバ」のサルガス広報官は「専門家が認定した被害には賠償に応じるが、事故との関連が立証できない被害に基づいて『売れない』とする主張には応じ難い」としている。エイマールさんの農作物補償交渉は難航しそうだ。

 ◇広報は15時間後

 ボレーヌ市が住民に「生水や川魚を口にしないよう」通知したのは、事故発生から15時間後の7月8日午後2時だった。近くの主婦、セリニョンさん(50)はその日、いつもどおり井戸水でコーヒーなどを沸かし、朝食と昼食で飲んだという。「尿検査などで異常なしと診断されたが、事故の知らせを聞いた後、不安でパニックになった。原発がこの国に必要なことは分かっている。こんなばかげた事故はもう二度と起こしてほしくない」と訴える。

 仏放射線防護・原子力安全研究所は事故直後の8日午前10時半、ウラン貯蔵施設近くの運河で1リットル当たり6万6900マイクログラムのウラン濃度を検出した。その後濃度は低下し、10日午後には世界保健機関(WHO)が飲料水用の基準値としている「同15マイクログラム以下」とほぼ正常化した。しかし、セリニョンさん宅の井戸水は9日の検査で同70マイクログラム、貯水タンクは21日でも同41マイクログラムを示していたという。

 ◇子会社の社長更迭

 これについて放射能調査独立委員会のシャレロン検査部長は「ウランの放射能は数年かかって免疫組織に悪影響を与える恐れがある。今、症状が出ないから安全とは言い切れない。70マイクログラムは懸念される数値だ」と指摘する。

 原発は二酸化炭素削減の切り札とされ、脚光を浴びている。アレバは中国、米国、北アフリカ、中東諸国と原子炉輸出契約を次々と結んでいる。今のところ、輸出への具体的影響は出ていないが、アレバのロベルジョン会長は、事故を起こしたソカトリの社長を更迭。安全対策を強調し、影響の最小化に努めている。

 ◇事故の状況

 3件相次いだ最初の事故が、トリカスタン原発でのウラン溶液流出事故。アレバによると、ウラン溶液5万リットルの入ったタンクAから、タンクBに溶液を移す作業で事故が起きた。移送パイプにはウラン溶液3万リットルの入った別のタンクCがつながっていた。コンピューターでは閉鎖表示が出ていたがバルブが開いており、CからもBにウラン溶液が流れ込んだ。Bから3万リットルがあふれ出した。

 Bの警報ベルが鳴ったが、作業員はCからの流入を知らなかったため「警報は誤報」と思い込み作業を続けた。ウラン溶液は受け皿の容器にとどまるはずだったが、内壁が破損していたため、外にあふれ出し、ガフィエール川に1万8700リットルが流出したという。

 18日には、南部ロマン・スール・イゼールにあるアレバの子会社の核燃料工場で、核燃料の生産施設と廃液処理場を結ぶパイプが損傷し放射性物質数百グラムが漏れだした。23日には、トリカスタン原発で、運転停止中の原子炉の配管から放射性物質が漏れ出し、従業員100人が被ばくした。

 ◇「ミスが重なった」--アレバのブランシェー事業所長

 アレバのブランシェー・トリカスタン事業所長(58)に被害状況など聞いた。

 --事故原因は?

 ◆移送作業中に、(1)タンクCのバルブが開いていた(2)タンクBの警報ベルを無視した(3)受け容器の内壁が破損していた--の3点でミスが重なった。

 --発生から広報まで15時間かかっているが。

 ◆事故は7日午後11時に起きたが、異常に気付いたのは8日午前6時だった。直後に市役所に一報し、応急処置と原因究明、ウラン濃度検査にとりかかった。状況が把握できたのは正午だった。早く気付くべきだったが、事態把握までは応急措置や検査があり、これくらいかかる。大げさに伝え住民をパニックに陥れたくない気持ちもあった。

 --人体への被害は。

 ◆事故直後を除きウラン濃度は1リットル当たり15マイクログラム以下に落ち着いており、住民の尿検査などからも影響は出ていない。生水を飲まないなどの措置は「用心のため」であって「危険なため」ではない。

毎日新聞 2008年8月17日 東京朝刊

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