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【医療と刑事捜査】(上)対峙するエリート (2/3ページ)
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司法試験を通った検察官。遺族感情や社会常識を考え、法に照らして罪をあぶり出すのが仕事だ。対して医師試験という難関を突破し、臨床経験を積んだ医師は、自分たちこそが医療の現場を熟知しているという自負がある。
「文科系と理科系のエリートたちの互いへの不信感が全面対決したという構図だな」。今回の事件を俯瞰(ふかん)して、ある裁判所の幹部が漏らした。
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加藤医師の逮捕から1審判決までの2年半。期を同じくして医療現場、とりわけ産科の現場は急速に荒廃が進み、産む場所がない「お産難民」や出産救急の「受け入れ拒否」が社会問題化した。厚生労働省の調査では今年1月時点で、お産の休止や取扱件数を制限している病院は全国で77施設もあった。
その一因として、医療現場は「大野病院事件での捜査」を挙げる。
日本医師会の木下勝之常任理事は「『あれで逮捕されたらかなわない』と、現場の医師の気持ちが萎(な)え始めた」と指摘。北里大学医学部の海野信也教授(産婦人科学)は「刑事立件の可能性が医学生にも認識された。たとえ本人が志望しても親や家族が反対する」と証言する。
医療事故の原因究明は、刑事裁判にはなじまないのではないか。医療現場の声をくみ取る形で、厚生労働省は19年4月、法務省と警察庁も巻き込み、捜査機関に優先して死因の調査、評価、分析などを究明する機関である「医療事故調」(医療安全調査委員会)設置の検討会を立ち上げた。