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福島・大野病院医療事故:無罪判決 加藤医師、安堵の表情 女性の父、怒り胸に傍聴

 医師の判断に「過失」はなかった--。全国の医療関係者が注目した「大野病院事件」で、無罪判決が言い渡された。判決の瞬間、医師の加藤克彦被告(40)は小さく息をつき、安堵(あんど)の表情を見せた。昨年1月の初公判から判決まで15回の公判すべてを傍聴した被害女性の父渡辺好男さん(58)は前かがみで目を閉じ、聴き入っていた。

 福島地裁1号法廷。午前10時すぎ、スーツ姿の加藤医師が入廷。被告席に着く際、裁判長と傍聴席の遺族にそれぞれ一礼した。「被告人は無罪」。鈴木信行裁判長の声が法廷に響くと、直立不動で聴いていた加藤医師は、ほおをふくらませ、小さく息をついた。

 加藤医師は初公判から「切迫した状況でできる範囲のことを精いっぱいやった」と無罪を主張しつつ、謝罪も口にし、今年5月の最終意見陳述では「できる限り一生懸命行ったが悪い結果になり、非常に悲しく悔しい思い」と述べていた。

 一方、死亡した女性は出産後、対面した長女の手をつかんで「ちっちゃい手だね」と声をかけたという。その後胎盤剥離(はくり)を経て容体が急変し、輸血などの措置が講じられたが、出産の約4時間半後に死亡した。

 渡辺さんは判決を控えた今月12日、毎日新聞の取材に応じ、公判で繰り返し謝罪した加藤医師に対し「わびるなら、娘が生きている間になぜ医療の手を差し伸べてくれなかったのか。絶対許さないという気持ち」と怒りをあらわにした。

 判決言い渡しを終えた鈴木裁判長が、最後に「これが裁判所の結論です」と述べると、加藤医師は裁判長に向かって深々と頭を下げた。検察側にも2回会釈し、表情を崩さないまま法廷を後にした。【松本惇、清水健二】

 ◇「極めて妥当な判断だ」「事故の教訓生かして」--関係者

 今回の無罪判決に、関係者からは「妥当だ」「事故の教訓を生かして」など、さまざまな声が上がった。

 調査を担当した国立成育医療センターの久保隆彦・産科医長は「一般に妊娠・出産は危険な行為であるということが知られていないが、産科医は数多くの危険な妊婦を助けてきた。有罪になれば、こうした妊婦を対象にした医療行為が否定され、産科医療の崩壊に拍車をかけるところだった。今回の判決は極めて妥当な判断だ」と語った。

 25年前に医療事故で娘を亡くした「医療過誤原告の会」の宮脇正和会長(58)は「医療界は刑事訴追への批判だけで終わらせず、この事故からリスクの高い医療行為の際には応援医師を呼ぶなどの体制を取るべきだという教訓を学び、再発防止に役立ててほしい」と訴えた。

毎日新聞 2008年8月20日 西部夕刊

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