低音の再生と管内共鳴の防止 (2008,1,3 新規掲載)
管の長さが1mあれば低音を充分な量で再生できまるが、低音と共に管内共鳴が目立ってしまう。
筒内に吸音材を充填すれば管内共鳴は抑えられるが、低音も減ってしまいます。
管内共鳴を伴わない低音を得るために工夫を重ね管内共鳴を解消しました。
試行錯誤で得た結論は、
◎低音は“音路”の断面積をコーンの面積と同程度に絞る事で充分に得られる。
◎管内共鳴を把握するにはインピーダンスの測定が近道。
◎管内の構造や吸音材で管内共鳴を一割程度軽減する事が出来た。
◎管内共鳴の解消には電気的な対策が不可欠。
★ダンピング抵抗は大きな効果が得られます。そのうえ工作が容易で費用も僅かです。
★ダンピング抵抗とノッチフィルタを併用したPassive Dump Systemにすると完璧に近い結果が得られます。
以下は管内共鳴を抑え充分な量の低音を確保する実験の詳細です。
試行錯誤の過程を記録したものなので音質の評価に辻褄が合わない所が在ると思われます。
それは試聴を続ける過程で耳が学習し、管内共鳴を聞き分ける能力が向上した為です。
矛盾があった場合には、日付の新しい記事の信憑性が高いと理解して下さい。
1 低音の再生
2 管内共鳴の軽減 (ホーンポールで一割程度の軽減に成功)
2-1 ホーンポールの詳細 ('08,07,29 追記)
3 インピーダンスの測定
3-1 インピーダンスのシミュレーション ('08,08,13 追記)
4 インピーダンス補正の実験 (電気的な対策が不可欠と判明)
5 ダンピング抵抗の実験 (簡単に引締まった低音を得られます)
5-1 発熱の評価
5-2 試聴
5-3 ディジタルアンプとの整合性
5-4 ダンピング抵抗接続後のインピーダンスの測定
5-5 友人I氏による試聴
5-6 周波数ー音量特性測定
6 ダンプ抵抗とノッチフィルタの併用実験
6-1 市販チョークコイルでの実験
6-2 手巻きチョークコイルでの実験
7 Passive Dump Systemの製作 (管内共鳴対策の決定版)
7-1 チョークコイルの製作
7-2 コンデンサの選定
7-3 共振周波数の調整
7-4 回路
7-5 試聴
7-6 インピーダンスの測定
7-7 温度特性の測定
7-8 トラブル発生
7-9 友人による試聴
8 スピーカーケーブルに関する考察
1 低音の再生
コーンスピーカーの常識では、3インチのスピーカーに充分な低音を期待するのは難しい。
低音が出ない理由は、コーン紙の力がバッフル面に拡散し“暖簾に腕押し”の状態になり充分に空気へ伝わらないからだ。
円筒形スピーカーではコーン紙の裏側の力を活用している。
パイプで力が拡散するのを防ぎ、空気の重さを利用して低音を出している。
しかし実際に作ってみると内径100mmのパイプでは“音路”の断面積が広すぎて低音は充分に出なかった。
“音路”の断面積を狭くする為には、パイプを細くする方法と仮想グランドを太くする方法が考えられた。
パイプを細くするには異径ソケットを使って細いパイプに繋ぐのだが、
“音路”の断面積を自由に選ぶことが難しい事と異径ソケットのテーパー部で音が反射し濁るのを懸念し避けた。
“音路”の凹凸は音を変質させる要因だ。素直な音を得るには“直管”に勝る物は無い。
下の写真は仮想グランドを太くする方法での試作品です。
仮想グランドには16mmの鉄棒を使い、その上に水道管などを保温する為の発泡ポリエチレンチューブを二重に被せ、
更にその上に滑り止用の網状スポンジシートを巻いてある。表面の小さな凹凸で高音だけを減衰させようとした。
“音路”の断面積はコーン紙の面積に近くなるように作った。
ホームセンターで売られている発泡ポリエチレンチューブはパイプの保温用で、施工する際に便利なように切込みが入り断面がC字形になっている。
東急ハンズで売られているものも材質や風合いは同じだが、切込みが無く多種のサイズが用意されているので具合が良かった。
肝心の音だが、3インチのSPユニットでも充分な低音が得られる事が判った。
しかし低音部に管内共鳴が伴い若干パイプ臭いこもった音が出た。
2 管内共鳴の軽減
管内共鳴を防ぐため仮想グランドに吸音材としてレンジフード用フィルタを巻いた。
管内共鳴は低減されたが、副作用として中低音部が減り痩せた音になってしまった。物足りないが悪い音ではなかった。
痩せた音にならずに管内共鳴を防ぐ方法としてパイプの途中で断面積を変え共鳴周波数を分散させる手法を思いついた。
当初は僅か2段で試したが、誰の耳でも有意差を感じる結果だった。
2段でも効果が確認できたので更に段数を増やせば効果も増すと推定した。
その際に各段の長さと太さをどのように配置すれば最も効果的か考えた。
その結論が下の写真だ。パイプの太さを8段階に変え凹凸の少ない流線型のような形になった。
各段階の長さはと太さは“音路”の断面積が遮断周波数23Hzのトラクトリックホーンになるように設計したつもりだ。
当初は一般的なエクスポーネンシャルホーンで検討したのだが、朝顔のように大きく拡がりパイプの中に納まらなかった。
ホーンと言うと元が細く、先へ行くほど太くなるパイプを想像するが、“音路”の断面積がホーン状になれば外径は直管でも機能は同じだ。
考案した円錐棒を、その目的からホーンポールと名づけた。
約二年前に考案したものだが、2008年1月1日の時点でもネット上に類似技術は見られない。
ホーンポールの採用により我が円筒形スピーカーはバックロードホーンになった。お手本にしたYoshii9とは異なる構造だ。
しかも通常のバックロードホーンとも異なり、定位性に悪影響を与える高音をパイプ内で減衰させ中低音部だけを下から出す。
ホーンポールの効果は著しく、豊かで歯切れの良い中低音が出た。とても3インチのSPユニットとは思えない音だ。
ドラムの腹に響く低音やチェロの低音も不足なく奏でる。オーケストラも高解像度で楽しめるようになった。
MIDNIGHT SUGAR (Yamamoto Tsuyoshi Trio) のベースも音程が明快に聞き取れる。こもった感じは無い。
2-1 ホーンポールの詳細 ('08,07,29 追記)
その後下表のように遮断周波数と吹き口面積を変えた3種類のホーンポールを試作した。
通常のホーンでは形を変えるのは困難だが、ホーンポールならば容易です。
僅かな太さの違いだが、音は大きく変った。
遮断周波数 〔Hz〕 | 吹口面積 〔cu〕 | 筒断面積 〔cu〕 | |
試作1 | 23.0 | 37.1 | 72.4 |
試作2 | 23.0 | 33.9 | 72.4 |
試作3 | 21.0 | 33.0 | 72.4 |
試作したホーンポールの太さは下表のようです。
ポールの太さは半径を、また距離0cmはスピカーに接した部分を意味しています。
ホーンの設計には英語のホームページを利用させて頂きましたが、現在は消去されたようです。
同様の記事が幾つか見られますのでTractrix Hornで検索すれば見つかる筈です。
SP後部からの距離 〔cm〕 | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 | 90 | 評価 |
試作1の太さ 〔cm〕 | 3.35 | 3.21 | 3.05 | 2.89 | 2.68 | 2.45 | 2.16 | 1.81 | 1.34 | - | 良い音だが低音不足 |
試作2の太さ 〔cm〕 | 3.50 | 3.35 | 3.21 | 3.03 | 2.81 | 2.57 | 2.28 | 1.89 | - | - | 良い音で低音も充分 |
試作3の太さ 〔cm〕 | 3.54 | 3.42 | 3.28 | 3.13 | 2.96 | 2.76 | 2.53 | 2.25 | 1.90 | 1.44 | 低音が過多 |
試作1は良い音だが若干低音が不足していた。その為か管内共鳴は気にならなかった。
明るく軽快な音で音楽の種類を選ばず楽しめます。
試作2は総ての周波数帯域に亘って良い音が出て低音も充分だった。
しかし管内共鳴が顕著になりパッシブダンプシステム無しでは聴き辛い音だ。
現在はパッシブダンプシステムと組合せて試作2を常用している。
試作3は更に低音を強化する目的で試作した。
音を聴いて見ると狙いどおり低音が強化されていた。
しかし低音の量が過多で高音とのバランスが崩れてしまいました。
また再生できる周波数が下に伸びたようだったが心地良い音ではなかった。
CDには演奏会場の共鳴音らしき音が含まれている物がある。
大部分のCDのメーカーは、編集の際に削除している様だが、一部では残っている物もある。
そのようなCDでは不快な音が出た。。
ホーンポールの写真でSPユニットに隣接した部分が白く写っています。
この部分にはレンジフード用の不織布を2回重ね巻きしています。
目的はパイプ内部で生じる高音の反射がSPユニットのコーンを通過して上部から漏れ出るのを防ぐ為です。
我が円筒形スピーカーでは繊維状の吸音材を使っているのは、この部分だけです。
この部分の長さによって音の感じが大きく変ります。長さは10cmが最良でした。
試聴しながらカットアンドトライを繰返して決めました。驚く事に1cmの違いが音に現れます。
これは下記のホームページに記載された「由井社長さんからのメール」の内容を参考にさせて頂きました。
http://www.geocities.jp/oga1228/page003.html
3 インピーダンスの測定 ('08,2,2 追記)
ホーンロッドの効果を検証する目的でインピーダンスを測定した。
比較の為に上から下まで直径5cmで変わらない丸棒も測定した。結果はグラフのようになった。
鋭いピークが60Hzと140Hzにあり管内共鳴が消えていないが、丸棒を較べるとピークが一割程度低くなっている。
たった一割の違いだが、聴感では大きな違いを感じた。しかし問題の解決には程遠い事が判った。
上のグラフでは円筒形SPに特有の大きな共鳴があるように見えるますが、縦軸が直線目盛の為です。
Webに公開されている箱型スピーカーのインピーダンス測定例では縦軸が対数になっているグラフが殆どです。
その理由は対数でなければ収まらないほどの共鳴がある為と思われます。
スピーカーのインピーダンス測定法にはパソコンを使って簡便に測定する方法もあるが、
インピーダンス測定は初めてだったので経験の為に低周波発振器とデジタルマルチメーターを使った。
各周波数に於けるスピーカーへの電流が25mAになるようにアンプの音量つまみを調節しスピーカー端子の両端の電圧を測定した。
デジタルマルチメーターにはFluke45を使った。Fluke45は数値表示部を二組備えている。
電流と電圧を交互に自動測定し同時に表示してくれるので、一台のマルチメーターで配線を変えずに済み便利だった。
3-1 インピーダンスのシュミレーション ('08,08,13 追記)
情報を求めWeb上を探し回っていて興味深い記事を見つけた。
「共鳴管の物理学」という表題のホームページだ。
http://www.katch.ne.jp/~hasida/speaker/impedanc/speaker12.htm
その内容はパイプの上部にSPユニットを取り付けた場合の特性をExcelで算出しようとするものだ。
嬉しい事にワークシート(imp simu.xls)が提供されていた。
早速ダウンロードして我が円筒形スピーカーの寸法を入力し計算してもらった。
その結果からインピーダンスだけを取り出したのが下の表です。
計算結果が実測したインピーダンスと似ていて驚きました。
ピークの周波数や高さはなど細かな点では少し違うのですが、概ね合っています。
また実測したグラフには260Hzと400Hzの山が無いのですが、ピークが鋭く測定時に見落としたものです。
この後に行った「ダンピング抵抗接続後のインピーダンス測定」には在ります。
シミュレーションの結果から、円筒形スピーカーには出処不明の共鳴が無いと判りました。素晴らしい事です。
また400Hz以上の周波数には音質に影響するような大きな共鳴が無い事も裏付けられました。
円筒形スピーカーではバイオリンの音が秀逸ですが、理由が判ったような気がします。
素晴らしい技術を提供されているホームページ「hisadaの部屋」に感謝しています。
http://www.katch.ne.jp/~hasida/index.html
4 インピーダンス補正の実験
円筒の内部構造を工夫しても管内共鳴を解消するのは難しそうなので電気的な解決を模索した。
アンプからスピーカーへ供給する電力から管内共鳴のピークに相当する周波数成分を削減して音の調和を図る。
一般に特定の周波数だけを減衰させるフィルターはノッチフィルターと呼ばれるそうだ。
フィルターはコイルとコンデンサを直列に接続した直列共振回路と尖鋭度(Q)を調節する抵抗で構成される。
ネットを探したところ下記の便利な記事を見つけたので利用させて頂いた。
http://www.carstereo.com/help/Articles.cfm?id=23
先ず音に大きく影響していると思われる140Hz付近の高いピークに対処する事にした。
作る前にピークの周波数をファンクションゼネレータで正確に測定したところ132Hz@10℃だった。
上記のHPに次の数値を投入して計算してもらった。 Fs:132Hz Qes:6 Qms:1.8g Re:7Ω
得られた結果は右のような値になった。 C:28.72μF L:50.65mH R:30.33Ω
投入した数値には疑問があった。Qmsはコーン紙の重さだが円筒形SPの場合には筒内にある空気の質量が影響する筈だ。
どのように補正したらいいのか判らなかったが、Qmsが影響するのは直列抵抗Rだけなので可変抵抗として実験することにした。
実際に作ろうとすると、コンデンサとコイルが大きくて簡単ではなかった。
電解コンデンサが使えれば廉くて良いのだが、容量の誤差が多く安定性にも問題が ありそうだ。
仕方なく値が張る(¥280-/@ )が、3.3μFの積層ポリエステルコンデンサ8個を並列に用いた。
誤差はコイル側で調節することにした。
問題はコイルだった。秋葉原を探して回ったのだが適当な物が見つからなかった。
考えたあげくに手持ちのエナメル線(ホルマル線)をボビンのまま使う事を思いついた。
太さ0.5mmで長さ159mのエナメル線が巻かれたボビンをインピーダンスブリッジで測定したら30mHで容量が20mH程足りなかった。
そこで昔使われたミュー同調のようにボビンの軸穴に鉄棒を挿し込み容量を増やして測定した。
鉄棒を3cmほど入れたところで50mHになることが判った。
コイルだけで13,6Ωの抵抗があると判ったので可変抵抗は使わずに実験する事にした。
コイルとコンデンサを半田付けした後にファンクションゼネレータとオシロスコープを使って
ノッチフィルターの周波数をインピーダンスのピークに合わせた。
ファンクションゼネレータの周波数を132Hzに設定し、
オシロスコープに表示された振幅が最小になるように鉄棒を挿し込む深さを調節した。
下の写真はノッチフィルターの様子です。CDのプラスチックケースに載っています。
右下に見えるアンプの出力端子へバナナプラグで接続しています。
ホーンポールにノッチフィルタを取り付けた後のインピーダンスを従前の方法で測定したところ下図のようになった。
狙ったの132Hzピークは見事に解消している。期待していなかった60Hzの山も目立たなくなっている。
しかし全帯域に亘ってインピーダンスが低すぎる。直列抵抗を入れずコイルの抵抗だけに期待したのが原因だろう。
10KHz以上のインピーダンスが急に高くなっているが、鉄棒の磁気特性によるものだろうか。
試聴にはビルエバンストリオのWaltz for Debbyを使った。
トラック2の左チャンネルに大音量のウッドベースによる演奏が収録されていて低音の試聴に都合が良かった。
ノッチフィルターの効果は耳ですぐに確認できた。
従来はウッドベースが奏でる特定の音階が強くボワーンと響いたが、解消した。
各音階間での音の差が少なくなり音程が明快に聞き取れるようになった。
また低音が締まった感じになりウッドベースの奏でるメロディーを心地良く感じた。
低音が出るのは管内共鳴によるものではないかと懸念していたが杞憂だった。
管内共鳴を解消しても充分な低音が出る。若干出過ぎ気味なので減らす工夫が必要かも知れない
試聴を通じてホーンポールの効果を確認できた。丸棒に比べ同じ電力で大きな音が出る。能率が高いようだ。
インピーダンスの測定値では大差無かったが、低音の量は三割り増しといった感じだ。
この実験によりノッチフィルターによるインピーダンス補正が管内共鳴の軽減に有効で音質の向上も確認できた。
5 ダンピング抵抗の実験
ノッチフィルターによるインピーダンス補正では、アンプからスピーカーへ供給する電力から管内共鳴の
ピークに相当する周波数成分を削減して音の調和を図る事を狙い効果を確認した。
気になるのは200Hz以下の挙動だ。補正後のインピーダンスを測ったグラフで測定値に乱れがある。
この原因は管内共鳴によりスピーカーユニットが発電する周波数とノッチフィルターの共振周波数の差で干渉していると推定した。
ノッチフィルターはインピーダンス補正の手段として問題があるのかもしれない。
ノッチフィルターはスピーカーユニットが発生する電力を吸収してコーン紙の制動にも寄与していると思われる。
そこでLCによる共振回路を使わずに抵抗だけでもコーン紙の制動に効果があるのではないかと考えた。
少々強引だが、スピーカーユニットと並列にダンピング抵抗を挿入すれば
管内共鳴によるスピーカーユニットからの電流を吸収し制動に寄与する筈だ。
問題はアンプから出た電力がダンピング抵抗に流れ無駄になる事と抵抗の発熱だ。
しかし使っているデジタルアンプは20Wもの容量があり余裕は充分にある。
抵抗の発熱も最大10W程度と豆電球並なので気にはならない。
抵抗はスピーカーユニットのインピーダンスに近い値で実験した。
下の写真は実験に使ったセメント抵抗だ。4.7Ω10Wの抵抗を2本直列にして9.4Ωにした。
スピーカーとの合成インピーダンスは4Ω程度になる筈だ。
5-1 発熱の評価
実際に鳴らしてセメント抵抗に手を触れると意外にも冷たいままだった。
モノラルでの実験だがステレオで鳴らすのと同程度の音量を片方のスピーカーから出している。
通常の倍に近い電力を投入している筈だが発熱を感じなかった。
それならばと抵抗器を8.2Ω2Wに替えて実験した。
やはり発熱は感じなかった。室温が12℃で指先が冷えていた事によるのかも知れないが、
スピーカーユニットへ供給される電力の平均値は僅かのようだ。
またホーンポールの高能率が投入電力の削減に寄与しているのかもしれない。
5-2 試聴
ダンピング抵抗の効果は顕著で管内共鳴は感じなくなった。
ベースが出す音階の低い部分で音量が若干大きいかなと疑う所はあるが、
元々の録音によるものか管内共鳴によるものか判断できない。
管内共鳴が残っているとすればノッチフィルターとの併用も検討しなければならない。
従来の低音が紡錘形とすれば、ダンピング抵抗によって台形のような感じになった。
とても歯切れの良い低音になって気持ちが良い。
低音部だけではなく全音域に亘ってダンピング抵抗の効果が感じられた。
抽象的な表現になるが、薄霧が晴れたように透明感が増し良い感じだ。
解像度も向上したようだ。ビルエバンストリオのWaltz for Debbyを聴くと僅かだが、
酔客のお喋りが以前よりも多く聞える。これもダンピングの特性が向上したからだろうか。
スピーカーの駆動にはデジタルアンプ(TA2020)を使っている。
NFBの無いデジタルアンプのダンピングファクターはアナログアンプに比べ小さそうなので、
ダンピング抵抗の効果が顕著になったのかもしれない。
5-3 ディジタルアンプとの整合性 (‘08,2,23)
デジタルアンプは出力部のローパスフィルターを負荷のインピーダンスに適合させないと
平坦な周波数特性を得られない。今回の実験では8Ω用のアンプに4Ωの負荷を接続した。
周波数特性が変って音の感じが変わっているのかもしれないと考えシミュレーションをしてみた。
結果は下図のようになった。黄緑が8Ωで赤が8.2Ωのダンピング抵抗接続後です。
一見すると大きく変ったようにも見えるが、可聴周波数の範囲では大差が無く実用上問題のある特性ではない。
CoとCzを0.33μFに変えると僅かだが更に良い感じになるようだ。
高音域の電流が僅かな現象傾向になったのに従来よりも音の透明感が増し解像度も向上したと感じた。
ダンピング抵抗の効果は顕著だ。正直の所、今迄で一番心地良い音だ。
5-4 ダンピング抵抗接続後のインピーダンスの測定 (‘08,3,4)
ダンピング抵抗の効果を確認するためにインピーダンスを測定したところ下図のようになった。
以前の測定グラフに較べてピークが増えている様に見えますが、測定周波数の間隔を狭くした結果、見落としていた山が現れました。
未対策の場合には管内共鳴のピークが裾の5倍も高くそびえていたが、ダンピング抵抗によって1.9倍程度に改善された。
しかし完璧と言う水準ではない。ノッチフィルターの併用が必要かもしれない。
5-5 友人I氏による試聴 (‘08,3,4)
いつも“音較べ”に参加してくれる友人のI氏に8.2Ωの抵抗を提供して評価を御願いした。以下はその報告です。
>
> 早速、家でも聴いてみました。
> 低音がすっきりし、てとても聴きやすくなりました。
> テレビの音も低音がすっきりして聴きやすくなりました。
> 素晴らしい効果に驚いています。
> 低音が出すぎではとの懸念も分るような気がしました。
> すっきりした分そのように聞えるのかもしれませんね!
> 息子の1号機にも入れたいと思っています。
I氏は高さ1mと60cmの二台で試されたそうです。どちらのSPユニットもFF85Kです。
またアンプはデジタル(TA2020)、DACはHRDAC-01です。
5-6 周波数ー音量特性測定 (‘08,3,14)
ダンピング抵抗によって管内共鳴は大幅に改善されたが、インピーダンスの測定では山が残っており平坦ではない。
しかし聴いた感じでは管内共鳴は感じない。ノッチフィルターの併用を検討する材料として電気的に音量を測ってみた。
円筒下の開口部から出る音だけを拾うために脚部円盤の下にマイクを差込んだ。
測定にはMySpeakerを試用させていただいた。下図はその結果です。
測定結果には目立った管内共鳴は見られない。
比較のためにダンピング抵抗が無い場合も測定したが、測定結果に差は無かった。
周波数ー音量特性は管内共鳴の評価には適さないようだ。
耳ではダンピング抵抗により低音のキレが良くなり量も増したように感じていたが、
電気的な測定では音量に変わりが無いという結果になった。
周波数ー音量特性は音楽を聴いて受ける感じと乖離があるようだ。
音のキレが良くなると音量が増えたように感じるのかもしれない。
円筒形スピーカーはバックロードホーンだが指向性を強く感じる高音を下の開口部から出さないようにしている。
パイプ内で高音を減衰させるべく円筒内壁とホーンポールに滑り止用の網状スポンジシートを貼った。
特にホーンポールでは網状スポンジシートの交点を間引いて心地良い音になるようにカットアンドトライを繰り返した。
周波数ー音量特性から低音通過フィルタとして機能し高音を弱めているのが確認できた。
600Hz付近から約20dB/octの勾配で減衰量が増えている。優れた遮断特性を備えた低音通過フィルタだ。
2KHz以上で飽和しているが、SPユニットの前面から出た音が天井や壁に反射して廻り込んだ為だろう。
ホーンポールと低音通過フィルタによってSPユニットの裏面はウーファーのように機能している。
6 ダンプ抵抗とノッチフィルタの併用実験
6−1 市販チョークコイルでの実験 ('08,3,31)
ダンピング抵抗によって音質や歯切れは大幅に改善された。
しかしインピーダンスの測定で山は低くなったが残っているのが判った。
ノッチフィルタを併用したら音が良くなるのか、またインピーダンスがどう変るのか興味があった。
ダンピング抵抗によって管内共鳴の山が低くなったので前回実験した際のLとCとは容量が変るはずだ。
ダンピング抵抗とノッチフィルタを併用する場合のLとCを計算することにした。
計算に必要な数値は下記のホームページを参考に求めた。
http://park8.wakwak.com/~hilo/audio/spktune/messtep1.htm
Fs:135Hz Qms:2.391 Qes:3.126 Qts:1.355
求めた数値を下記のホームページに投入してLとCを算出した。
http://www.lalena.com/Audio/Calculator/SeriesNotch/
その結果、L:14.75mH C:94.31μF R:9.32Ω との答えを得た。
コイルは前回の実験と同様に難題だった。市販品に適合するものが見つからなかった。
仕方なく最も近い20mHの物をラジオデパートのアイコー電子2号店で購入した。
しかし直流抵抗は40Ωもあった。小指の先ほどの小さな物だ。
コンデンサはセラミックコンデンサの100μF 6.3V を秋月電子通商で購入した。
耐電圧が心細いが大音量では鳴らさないので耐えると判断した。
また貫通破壊を起こしたとしてもコイルの抵抗が40Ωもあるので大事にはならない。
実際に直列接続して共振周波数を測定すると何故か130Hzに共振の谷がある。部品の誤差によるものだが、幸運だった。
これをスピーカーと並列に接続してインピーダンスを測定した結果が下図です。
結果から山の高さがダンピング抵抗だけの場合に比べ半減したことが判った。
ノッチフィルタは機能している。しかし700Hz付近に小さな凹みができている。
コイルの直流抵抗が大きいために共振特性の裾が広くなり影響した疑いがある。
僅かなインピーダンスの変化だが、音は大きく変った。
先ず感じたのは人の声が自然になり男女を問わず魅力が増した。
試聴したサラボーンやナットキンコールの美声に聞き入ってしまった。
また以前よりもボーカルが前に出てきた感じがする。
驚いたのは、音楽を聴いている時に静けさを感じた事だ。
書いている事が支離滅裂のようだが、サラボーンの曲などでは静かでしっとりとした趣に変った。
低音が減った筈だが、不足は感じていない。以前は出すぎの傾向だったので丁度良くなった。
Queenの演奏するWE WILL ROCK YOUで冒頭に大勢が床を踏み鳴らすが、その雰囲気が良く出ている。
好奇心からノッチフィルターのコンデンサを倍に増やして共振周波数を100Hz付近まで下げてみた。
音の印象が変わった。ノッチフィルターを正確に作れば更に自然な音になると予想される。
しかしコイルもコンデンサも容量が大きく市販品から適合する物を探すのは難しい。
6-2 手巻きチョークコイルでの実験 ('08,4,7)
正確な特性のノッチフィルターを作るために、チョークコイルを自作した。
磁芯にはアイコー電子2号店で購入したTDK製フェライトPC406X26Zを使った。適合する巻枠も一緒に買った。
選定理由は電気的な特性ではなく、線を巻きやすい大きさで選んだ。
TDK製フェライトPC40材はSW電源用トランスに適した低損失の優れた材料だが、
ノッチフィルター用に最適とは言い難い。温度の変化で共振周波数が変化してしまう筈だ。
他に入手できなかったので仕方なく使った。
電線は協和電線が販売する外形0.32mmのポリウレタン銅線を使った。
長さ20mずつ小袋に入れられていた。¥350-だった。
もっと細い線でも良いのだが、細いと巻きにくいので巻き易そうな0.32mmにした。
電線を巻くのは面倒な作業だと想像していたのだが、実際に巻いて見ると案外と簡単だった。
巻枠に端から隙間無く並べて巻くと一層当り20回巻けた。
4層巻いたところでインピーダンスブリッジを使って容量を測定したところ44.6mHもあった。巻き過ぎだ。
3層に巻戻して容量を測定したら25.8mHに減ったが、まだ多かった。
結局2.5層で目標の20mHになった。概ね60回巻だ。抵抗は0.9Ωで充分低い値に納まった。
もっと小さな磁芯を使い、細い電線を使えば小型のチョークコイルを作ることができる。
ノッチフィルター全体が小さくなれば円筒スピーカーに内蔵させることができるだろう。
写真の左側はインピーダンスブリッジで容量を測定しているところです。
測定器はデリカ社製のミニブリッジです。本体が小さく小回りが利くのでちょっとした工作には便利な測定器です。
左上のガムの缶は、電線リールの代用です。電線が絡むのを防ぐために予め巻き移しました。
右側は完成したノッチフィルターです。雑な作りですが、実験用なので充分です。
組合わせるコンデンサには前回と同じ積層セラミックを使った。温度特性に問題が在るが、代用が見つからない。
直流抵抗を調整するために8.5Ω相当の抵抗器を直列に接続し,チョークの抵抗と合わせて9.4Ωにした。
早速円筒形スピーカーに取り付けてインピーダンスを測定した結果が下のグラフです。
比較の為にPasshive dumpだけの特性も記載しました。
ノッチフィルタの効果は一目瞭然でした。
Passhive dumpだけの場合の最も高い山に命中し両側の山よりも低くなっている。
まるでカルデラ火山のような形になった。
自然な音で違和感が無い。また楽器の音の分離が良くなったように感じた。過去最高の出来栄えだ。
楽器の数が少ない曲だけではなくシンフォニーも自然に再生できる。
ベートーベンの第九(小澤征爾氏指揮)を試聴したが、充分に楽しめる水準に達している。
スピーカーのインピーダンスを平坦にする事が、音質の向上に寄与するのか不安が在ったが払拭された。
7 Passive Dump Systemの製作 ('08,4,17)
過去2回の実験でダンプ抵抗とノッチフィルタの併用が音質向上に効果的だと判ったので実用品を作ることした。
7-1 チョークコイルの製作
手巻きチョークの実験で作ったチョークコイルを小型化した。
前回は磁芯にTDK製P40材のE28(EIコアの長辺が28mm)を使った。今回は二周り小型のE22(22mm)を用いた。
秋葉原のラジオデパート1階にあるアイコー電子2号店で購入した。一個200円と安価だった。
店頭には並んでいないが各サイズを揃えているようだ。店主に相談すると気軽に出してくれた。
前回使った磁芯に較べて僅か6mmの差だが実物を見ると随分小さい。これなら円筒の中に組み込む事ができそうだ。
電線も前回の0.32mmから更に細い0.26mmのポリウレタン銅線を用いた。
電気的には、もっと細い線でも良いはずだが細い線は巻きにくいので0.26mmで妥協した。
巻き線作業は前回と同じ要領で行った。概ね78回巻いて目標の19mHになった。
直流抵抗は0.8Ωだった。前回よりも細い電線を使ったのに同程度の抵抗値におさまった。
磁芯に小さな物を使ったので電線の総延長が短縮されたのだろう。
下の写真で左端から完成したチョークコイル、巻き枠、E形コア、I形コアです。I形コアの長辺は22mmです。
7-2 コンデンサの選定
磁芯に用いたTDK製のP40材には温度が上がると透磁率が増す傾向がある。
透磁率が増えるとインダクタンスが増え共振周波数が下がってしまう。
これを打ち消すために温度が上がると容量が減るコンデンサを探した。
前回の実験で使った積層セラミックコンデンサは温度が上がると容量が増えるので実用には不適だった。
秋葉原で積層セラミックコンデンサを買い集め、温度が上がると容量が減る物を探した。
インピーダンスブリッジで容量を測りながらコンデンサを指でつまんで暖め傾向を探った。
その結果、秋月電子通商で買った日本ケミコン製のTHDシリーズ(耐圧25V)が良い感じだった。
同シリーズの47uF,10uF,1.5uFを試したが何れも同じで減る傾向でした。
また他社の積層セラミックコンデンサに比べて容量の誤差が少なかった。
他社の積層セラミックコンデンサもカタログ上では20℃を超えたあたりから容量が減るはずなのですが、増える一方でした。
室温が18℃だったので指先でつまんでも30℃程度までは上がる筈なのですが,理解し難い結果でした。
積層セラミックコンデンサは容量の誤差も大きいのですが、温度特性もバラツキが多いのかもしれません。
下の写真で左から47uF,10uF,1.5uFです。リードのピッチは何れも5.08mmでした。
なお双極性の電解コンデンサも試したが、表現し難いモヤモヤした嫌な感じの音が出て使い物にならなかった。
7-3 共振周波数の調整
CR発振器の出力端子に直列接続したチョークコイルとコンデンサーを接続した。
デジタルテスターを使いて出力端子の電圧を測定。
CR発振器の周波数設定ノブを廻してデジタルテスターの表示が最小になる周波数を探した。
最小になる位置が直列共振周波数だ。
直列共振周波数が135Hzに合うようにコンデンサを増減した。
当初は47uFだけだったので200Hz近い周波数だった。
次に10uFを追加し、更に1.5uFを加え徐々に目標へと追い込んでいった。
その結果、4個のコンデンサを並列に接続して目標の周波数に到達した。
各コンデンサの容量は47uF, 10uF, 1.5uF,1.5uFになりました。
各コンデンサには5%程度の誤差があるので計算上の共振周波数とは合致しないと思われます。
下の写真は共振周波数の調整を終えたノッチフィルターです。
巻き枠の使っていなかったピンを活用してコンデンサと抵抗を取り付けました。
7-4 回路
下図のように結線しました。ダンピング抵抗も含まれています。FOSTEX FF-85Kのインピーダンスは8Ωですが、
アンプ側から見たインピーダンスはダンピング抵抗によって4Ωになっています。
7-5 試聴
音は前回行った手巻きチョークコイルの実験と較べて差異は感じませんでした。
低音と高音のバランスが良く、もやもやした感じの低音も消えています。
ダンプ抵抗とノッチフィルタの併用によって135Hzの管内共鳴は解消しました。
しかし何度も実験と試聴を重ねるうちに耳が敏感になったようで稀に60Hzの共鳴かと
疑う部分があるが、気になる程ではないので特に対策は考えていません。
ダンプ抵抗とノッチフィルタの併用によって苦手のCDが大幅に減った。皆無と言っても良いほどだ。
以前は聴き辛かった室内残響が大きく録音されたCDも違和感無く楽しめます。
今、第九の第四楽章歓喜の歌をフェルトベングラー、カラヤン、小澤征爾と聴き比べながら文を書いています。
ティンパニーの力強い連打が心地良い。我が円筒形スピーカーも完成が近づいたようだ。
7-6 インピーダンスの測定
結果は下図の黄線です。前回行った手巻きチョークコイルの実験とは少し違う結果でした。
下図のPassive dumpと手巻きチョークの線は比較の為に挙げた過去のデーターです。
管内共鳴の周波数にノッチフィルタの周波数が合っていないようです。
過去に測定したときよりも気温が上がったのが原因だと思われます。
実測したところ管内共鳴は129Hzでノッチフィルタは137Hzで8Hzのズレがありました。
試聴では前回行った手巻きチョークコイルの実験と差異は感じなかったので、この程度の違いは問題にはならないようです。
しかし管内共鳴とノッチフィルタの温度特性に問題がありそうで検証する必要性を感じました。
管内共鳴の温度特性は音速から算出できますが、ノッチフィルタの温度特性は実測しなければなりません。
恒温槽がないので簡単には実験できそうにありません。どう攻めるか思案しています。
7-7 温度特性の測定 ('08,4,29)
エアコンの噴出し口から出る空気が直接当たる場所にノッチフィルタと温度計を置き温度を変えて共振周波数を測定した。
下図はその結果です。温度が上がると僅かに共振周波数が上がる傾向でした。
測定値にバラツキが多く精度の低い実験でしたが傾向を把握する事ができました。
コンデンサの温度特性が磁芯に勝った結果、温度と共に共振周波数が上がったと思われます。
しかしこの程度の変化ならば耳で感じないようなので実用上問題は無いと思われます。
コンデンサを吟味すれば更に平坦な特性にできるでしょう。
手前味噌ですが、あてずっぽで選んだコンデンサでこの結果は上出来と言えるでしょう。
7-8 トラブル発生 ('08,6,08)
このところ音が変だった。以前ほど締まった低音が出ないのだ。
何が悪いのかと調べたところノッチフィルターの共振周波数が200Hz位にずれていた。
共振周波数が狂った原因を探っていたところフェライトコアのエポキシ接着部に剥離を見つけた。
下の写真でEIコアの接着部が剥離し白い帯になっている。
この剥離によってEコアとIコアの接合部に隙間が出来てインダクタンスが狂ったのだ。
当初は20mHだったのに10mHと半減していた。
接着時はバイスで強く締めていたので熱膨脹で剥離したのではと推察している。
接着剤を剥しテープを巻いて固定する方法で修理した。
EIコアは正確な共振周波数が求められるノッチフィルタには向かないようだ。
ポットコアが適しているのだが、入手できないので仕方なく使っている。
7-9 友人による試聴 ('08,6,08)
円筒形スピーカーを自作した友人を招いて試聴会を開いた。
ノッチフィルターが無い場合と取り付けた場合で音がどのように変わるのか体感してもらった。
試聴にはSONNY ROLLINS/SAXOPHONE COLOSSUSのトラック5にあるBLUE7を鳴らした。
BLUEはベースの独奏から始まるのでノッチフィルターの効果を試すには最適だった。
評価は直ぐに出た。リアルなベースの音を聴きノッチフィルターの効果が素晴らしいと驚いていた。
当日は以前から試聴を希望していた読者も御招きしていたのだが、
仕事の都合で出席できなくなってしまった。私の友人達よりも“若い耳”には
どのように聞えるのか興味があったのだが、先送りになってしまった。
8 スピーカーケーブルに関する考察 ('08,6,11)
一般に高級なオーディオシステムでは太いスピーカーケーブルが用いられます。
それはスピーカーのダンピングにアンプの出力を利用したActive Dumping Systemを採用している為です。
Active Dumping Systemではスピーカーケーブルの電気抵抗が大きいとダンピング性能が低下してしまいます。
そこでダンピング性能を損なわないように太くて電気抵抗の小さなスピーカーケーブルが用いられます。
また多くのアンプではダンピング性能を向上する為にフィードバック(NFB)を採用しています。
この方式ではスピーカーの起電力をアンプの出力端子を通じてアンプの入力部に戻します。
スピーカーケーブルは音のエネルギーをスピーカーユニットに伝えるだけでなく
ダンピングに必要な情報をスピーカーユニットからアンプへ戻します。
つまりスピーカーケーブルは双方向の信号伝達を行う役割を担っています。
スピーカーケーブルにノイズが乗るとアンプに戻され音質が悪化します。
またスピーカにはマイクとしての機能もあるので、部屋の騒音がアンプに戻るという難しい問題も抱えています。
故にノイズの侵入を防ぎ、通過する周波数帯域を制限する機能等を備えたスピーカーケーブルを
用いれば音質が向上します。そのようなスピーカケーブルは驚くほど高価です。
ダンピング抵抗器とノッチフィルターを用いたPassive Dump Systemに太いスピーカーケーブルは不要です。
Passive Dump Systemは単純かつ小型なので円筒形スピーカーの中に組み込む事ができます。
これにより円筒内でDump Systemが完結するのでスピーカーケーブルにダンピング電流は流れません。
つまりスピーカーケーブルは音のエネルギーをスピーカーユニットに伝えるだけの一方向の信号伝達を行います。
スピーカーケーブルの抵抗がダンピング性能に与える影響は僅かなので細い電線で充分です。
よってスピーカーケーブルを選定するための要件は、振動対策が主で以下のようになりました。
★日常の使用で切れない強度が確保できる範囲でなるべく細い電線
★軟らかく振動を伝えにくい絶縁材を用いた電線
上述の観点から我が円筒形スピーカーでは0.5sqのシリコンゴム被覆電線を使用しました。
更に細い0.2sqも売っていたのですが、細くて頼りないので避けました。
またActive Dumping Systemではアンプの出力でコーンの振動を抑え込みますが、
Passive Dump Systemではアンプの出力に期待しません。
よって大出力アンプを使わず小出力アンプで歯切れの良い低音を楽しめます。
Yoshii9ではスピーカーケーブルに0.2sqのライカル線(シリコンゴム被覆電線と同義?)が、
またアンプには小出力の亀型アンプが使われています。
これはPassive Dump Systemと良く符合します。
Yoshii9でも似たようなPassive Dump Systemが使われているものと確信しました。
備考:従来、「趣味の工作」では発明者の知的所有権を尊重し内部構造を開示しませんでした。
しかし自分が考案した管内共鳴防止手法が、公開されている発明者の技術とは異なる事が確認され、
権利を侵害する可能性が無いと判断し公開に踏み切りました。