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記者の窓
「バーボンと小切手」

古田 信二
[毎日新聞社]

●フロリダに住む米国人に日本から、バーボン・ウイスキーを送った。米国人にバーボンを送るなんて、米国から日本酒を送ってもらうようなものだが、彼に言わせれば、米国で販売されていない特別なバーボンがいくつかあるのだという。彼は、バーボン・コレクターなのだ。マイアミ大学医学部の広報を担当している彼と、臓器移植や脊椎損傷治療の取材で知り合ったのは2年前だ。

●最初、日本から取材を申し込み、出張することを告げると、彼はメールで「日本でしか買えないバーボンリスト」を送ってきた。「できれば買ってきてもらえないか」というお願いだ。例えば「フォア・ローゼズ・シングル・バレル」や「IWハーパー・プレジデンツ・リザーブ」。これらは、米国では売っていないという。私はスーツケースに詰めて飛行機に乗った。初対面の私としては、バーボンをプレゼントして、少しでも気に入ってもらえれば、というつもりだった。

●バーボンの効果があったのか、彼は私がフロリダに滞在している間、運転手代わりにもなってくれて、車で1時間程度離れた場所の取材にも、つき合ってくれた。クルマでの移動中、彼のポケベルに連絡が入った。私にも「一緒に来てくれないか」と言う。緊急手術か大事件か? と緊張する私。しかし、そうではなかった。彼が以前から探していた、ビンテージもののバーボンが見つかったのだ。

●「現場」に急行して、見せてもらったのは、すでに生産が中止されている古びたラベルのバーボンだった。その夜、彼の友人も交えて、バーに行った。しかし、残念ながら、彼は酒が飲めない。ショットグラスの香りをかぎ、少しだけ舐めるのがせいぜい。そして「飲め、シンジ」。そして、いかにバーボンがすばらしいかを話し続けるのだ。

●さて、先日、日本から彼に送ったのは、ワイルド・ターキーの17年もの。立派な木箱に入った、コレクター垂涎の一品だ。海外向けの限定生産でディスティラーのサインが入っている。都内で数ヵ所の酒屋を回って、新宿歌舞伎町の酒屋でようやく見つけた。彼は今回、かかった経費として、ドル建ての小切手を送ってきた。私は「きっと円安になるから、しばらく換金しないでとっておく」とメールで連絡したが、しばらくすると、急激に円高になった。それで私は、今もその小切手を換金しないままに手元に置いている。ちょうど、飲めないバーボンを見て楽しんでいる彼のように。

●経済予測ができない経済部記者と、バーボンが飲めないバーボン・コレクター。悪くないコンビではないかと思っている。

(ふるた しんじ)

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