「世界保健機関(WHO)の事務局長選挙で日本の候補が負けたのは、在外公館が少なかったから」−−。来年度予算編成で在外公館の増設を求める外務省が、こんな論理で攻勢に出ている。歳出削減を掲げる財務省から在外公館職員の「高給体質」を指摘され、守勢に立たされていた外務省が、巻き返しに向け新たな材料を得た形だが、選挙の敗北を材料に使う姿に、政府内に冷ややかな見方も出ている。(3面参照)
8日に行われたWHO事務局長選挙では、日本が推した尾身茂WHO西太平洋地域事務局長が、中国の推す候補者に及ばず落選。翌9日の自民党「外交力強化に関する特命委員会」で、外務省幹部は「敗因はアフリカ票。中国は(投票権を持つ7カ国の)全部に大使館があるが、われわれは2カ国しかない」と訴え、在外公館増設に理解を求める動きに出た。
外務省には昨年、アフリカ諸国の支持を得られず国連安保理改革に失敗した経験もあるだけに、今回の敗北が在外公館増に向けた巻き返しに火を付けたようだ。同省は来年度、アフリカ4カ国を含む計10カ所の在外公館新設(大使館8、総領事館2)を求めている。
財務省は「選挙敗北を増設理由にすればきりがない」(主計局)と、外務省の「焼け太り」を早くも警戒している。【古田信二、中田卓二】
毎日新聞 2006年11月11日 東京朝刊
「WHO:事務局長選 日本の候補、「公館数で負けた」 外務省、予算獲得に独自の論理」
この記事、外務省批判に都合のよいとこだけをいいとこどりをしているのかも知れません。しかし、WHOでの敗北理由を「アフリカの在外公館が少なかったから」とはいただけません。
WHOの事務局長選出の仕組みは、34人の選出委員が一人1票で各候補者に投票します。過半数を獲得する候補者が出るまで投票を繰り返します。その際、最下位の候補者は落選していきます。
下記は、『香港文匯報』に掲載されていた二次選抜時の票の推移です。これを見る限り、外務省が票獲得の工作を行っていたとはとても思えません。落選候補者に投じられた票が、1票も入っていないことがわかります。「第二、第三の候補には是非我が日本を」との工作の跡がゼロです。逆に中国は、これらの票を確実に吸い上げて当選を決めています。
アフリカ票というより、スペインの候補に投じられていたであろうヨーロッパ票が1票も取れなかったのが致命傷となっているのがわかります。
香港文匯報「世衛執委會成員名單(地區/國家)」
- アフリカ(7カ国)
ケニア、レソト、リベリア、マリ、ナミビア、ルワンダ、 マダガスカル- ヨーロッパ(8カ国)
アゼルバイジャン、ラトビア、ルクセンブルク、トルコ、ポルトガル、ルーマニア、スロヴェニア、デンマーク- 西太平洋(5カ国)
中国、オーストラリア、日本、シンガポール、トンガ- アメリカ(6カ国)
ボリビア、ブラジル、エルサルバドル、ジャマイカ、メキシコ、アメリカ- 東南アジア(3カ国)
ブータン、スリランカ、タイ- 中東(5カ国)
アフガニスタン、バーレーン、ジブチ、イラク、リビア
在外公館数の増設には賛成なのですが、まず今ある力を十二分に発揮させているように見える形で示して欲しいです。財務省から増設分の予算を取りたいのなら、1票でも最初の票から上乗せさせておけば心象はかなり違ったのではないでしょうかね。
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