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社説:法曹人口 改革には今が踏ん張り時だ

 2010年までに司法試験合格者を3000人に増やし、18年には法曹人口を5万人にする政府の計画の雲行きが怪しくなってきた。市民が気軽に利用できる司法システムを構築するため、司法制度改革の中でも重要な施策とされてきたが、日本弁護士連合会は先月、増員をペースダウンするように緊急提言した。各地の弁護士会などでも、増員を懸念する動きが広がっている。

 日弁連は改革推進の立場で増員を認めてきたが、会員間には改革そのものへの批判の声もあり、増員に対しては法曹の質の低下や弁護士間の過当競争を招くとする反対論が根強かった。

 増員問題は今年2月の会長選でも争点となり、前執行部の路線を継承して当選した宮崎誠会長も、反対意見を考慮して増員の減速案を打ち出していた。その意味で緊急提言は想定されていたが、裁判員裁判のスタートまで1年を切った段階での、市民の側に立つ日弁連の路線転換とも映る動きには戸惑いを禁じ得ない。

 もっとも司法試験の合格者は長年、約500人に限られてきただけに、6倍に増やす計画に抵抗感が生じるのは無理からぬところかもしれない。修習期間が大幅に短縮されたり、司法研修所の卒業試験の不合格者が急増したため、関係者に不安が広がった面もある。修習生の就職難が深刻化し、弁護士希望の4人に1人は就職先が見つからない、という調査結果の影響も見逃せない。

 しかし、暴力団などを排除し、司法による紛争解決を当たり前にするには増員策は必要不可避だ。法曹界は改革に納得していたはずであり、日弁連も緊急提言は改革を後退させるものではない、としている以上、改革の原点に立って増員計画をたゆまずに推進してほしい。被疑者弁護、被害者代理人など弁護士の一層の活躍が期待される時期に、増員に消極的になっていたのでは市民の理解は得られまい。

 改革が進むにつれ、弁護士会の負担がさまざまな形で増大していることは、考慮されねばならない。裁判所や検察庁の採用枠はさほど広がらず、増えた資格者の雇用や教育の多くを弁護士が担っている格好だ。過疎地域での公設事務所の新設なども引き受けている。

 政府は合格者の増加に見合った法曹の養成に力を入れ、地方での弁護士開業を促すためにも、法テラスの機能強化、予算面の充実などの施策を講じるべきだ。質の低下が指摘されている以上、法科大学院の教育の内容や方法も点検されねばなるまい。司法修習も改善する余地があるのではないか。財界や企業も、改革の旗を振った経緯を思い起こし、法曹資格者の受け入れに積極的になるべきだ。

 司法改革は社会全体で取り組まなければ、成功はおぼつかない。

毎日新聞 2008年8月20日 東京朝刊

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