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社説:関取大麻汚染 師匠と協会の責任は重い

 現役の幕内力士が大麻所持容疑で逮捕された。大相撲界では前例のない不祥事の発覚である。

 逮捕された間垣部屋の若ノ鵬寿則(本名・ガグロエフ・ソスラン)容疑者はロシア出身。昨年九州場所が新入幕で、今年の名古屋場所では西前頭筆頭まで番付を上げた若手成長株だ。

 いつ、どこで、だれから大麻を入手したのか。大麻に手を染めたのはいつからか。間垣親方(元横綱二代目若乃花)や部屋の関係者は気づかなかったのか。ほかの力士らにもまん延していないのか。今後、究明しなければならないことは山ほどある。

 だが、同時に厳しく問われなければならないことがある。右も左もわからない若者を預かり、一人前の社会人に育てる責任がある部屋の師匠や日本相撲協会が、きちんと指導していたのかという問題だ。

 若ノ鵬は4年前に来日、先月20歳になったばかりだ。逮捕容疑の大麻所持の時点では未成年だった。相撲のけいこだけでなく日本語や日本文化の習得、社会人としての心構えまで手取り足取り教えなければならない段階だ。番付が上がったからと「大人扱い」し、放任していたとしたら師匠の指導放棄だ。5月にも弟子への暴行で処分を受けた間垣親方の責任は重い。

 昨年6月、時津風部屋の若い力士が兄弟子らによるリンチまがいのけいこで死亡する事故が起きた。これを受けて日本相撲協会は昨年秋、外部の識者を加えた「再発防止検討委員会」を設置した。委員会は力士養成の実態調査を踏まえ、4月に親方たちの再教育を目的にした師匠会の機能充実など当面の対策をまとめたばかりだ。

 だが、その足元も固まらないうちの今回の逮捕だ。師匠、協会の指導力不足は「問題横綱」朝青龍のケースと共通している部分が多い。相撲界のたがは緩み放しと批判されても仕方あるまい。北の湖理事長の監督責任も重大だ。

 警察庁のまとめでは、今年上半期の大麻取締法違反容疑の摘発件数は、過去最多だった昨年をさらに上回るペースで増加している。年齢的にも10代から20代の若年層が全体の65%を占め、若者へのまん延が深刻さを増している。

 昨年11月には大学ラグビー界の強豪チームの部員が寮で大麻草を栽培して現行犯逮捕された。スポーツ界にも大麻は深刻な影を落としている。

 慣れない日本暮らしに、若者が気分転換を図りたくなるのは理解できる。そのとき、身近に迫った大麻などの犯罪の甘い誘惑から弟子を守ってやるのは師匠の当然のつとめだ。

 はるばる日本に夢を追い求めてきた若者を、師匠の指導放棄でつぶしてしまったら、ただでさえ外国人依存度の高い相撲界の将来は真っ暗闇ではないか。

毎日新聞 2008年8月20日 東京朝刊

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