Kenji Hall (BusinessWeek誌、東京支局テクノロジー担当記者)
米国時間2008年8月5日更新 「Japanese Anime Studio Embraces YouTube Pirates」
昨年5月、総合メディア大手の角川グループホールディングス(本社:東京)が米国でアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のDVDを発売すると、ロサンゼルスその他の都市の販売店には日本アニメのファンが殺到した。
角川は、何カ月も前からウェブサイトで近く海外で発売することを示唆していたものの、それ以外に宣伝らしい宣伝はしていなかった。その必要がなかったのだ。米グーグル(GOOG)傘下の「YouTube(ユーチューブ)」などの動画共有サイトで既に獲得していた、作品への圧倒的支持を利用するだけで十分だったのである。
これはバイラル(クチコミ)マーケティングの優れた成功例にも思える。だが角川がこうした戦略を採用するに至ったのは、計画的と言うよりは“瓢箪から駒”に近かった。そして弁護士は、ネット上に蔓延する著作権侵害行為を容認する同社の方針に、さぞや驚き呆れたことだろう。
角川は単なる権利侵害の放置とは考えていない。角川歴彦会長兼CEO(最高経営責任者)は、熱烈なアニメファンに接近して何ら損になることなどないと考えている。このデジタル時代にあって、これまで同社の中核だった出版部門は先が見えている。また昨年の米音楽専門放送会社MTVネットワークスの親会社米メディア大手バイアコム(VIA)のようにユーチューブを著作権侵害で訴えたところで、同サイトを利用しているアニメファンの怒りを買うだけだ。
善意が報われる保証はない
角川はこうした試みにより、アニメファンから高い評価が得られ、またDVDやダウンロードコンテンツなどの関連商品の販売を視野に入れている海外市場でも新規ファンを開拓できると確信している。とはいえ、善意が報われる保証はどこにもない。
著作権のあり方を検討する国際団体クリエイティブ・コモンズが7月30日〜8月1日に札幌で開催した国際会議「iCommons Summit(アイコモンズ・サミット)2008」に出席した角川氏は、インタビューを受け、「我々が成功するかどうかは大きな注目の的だ。これまで不可能だったことを我々が可能にすれば、みんなが後に続くだろう」と語った。
先日の午後、角川グループのデジタルコンテンツの管理運営を行う角川デジックスを取材で訪問した。「後楽園ゆうえんち」近くの紳士服店の2階にある同社のオフィスでは、社員がユーチューブに新規投稿された数百件の動画のチェックに忙殺されていた。今年1月に角川がユーチューブの動画識別技術を利用して違法動画を検証すると発表して以来(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年1月25日「YouTube Finds a Convert Among Japan's Content Owners」)、この作業にかかりきりなのだ。
この数カ月間で、角川作品を流用したオンライン動画が数万件見つかった。使われているのは主に角川の2大人気アニメ「涼宮ハルヒ」シリーズと「らき☆すた」だ。「涼宮ハルヒ」は退屈している女子高校生が空想の世界を作り上げる話、「らき☆すた」はマンガとテレビゲームにしか興味がない4人の女子高校生の話である。
角川社員は結果を集計表に記録し、DVDからの違法コピー動画については直ちに削除するよう通告する。「すべての動画を1つ1つチェックしている」と、角川デジックスの福田正社長は言う。社員はこうしたデータベースを基に、どの動画を許可し、どの動画を削除するかを学習するプログラムを作成する。
角川がお墨付きを与える作品も
計画はこれだけにとどまらない。角川作品を流用したユーチューブ動画の中には100万回以上視聴されている作品もあり、優秀な作品にはお墨付きを与えていきたいと考えている。電子メールを送って、動画の横に角川の認定マークと広告を表示させてもらう許可を求め、またユーチューブ上に開設した「角川アニメチャンネル」(記事執筆時の会員数は2186人)への加入を勧める。