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NIKKEI NET

社説2 不信を招いた破綻前の起債(8/20)

 東証1部上場の不動産会社、アーバンコーポレイションが先週、民事再生法の適用を申請した。米不動産バブル崩壊による信用収縮や国内不動産市況の悪化を映しているが、一方で指摘しなければならないのは、破綻前に同社が実施した起債が投資家の不信を招いた点である。

 アーバンコーポは6月、フランス系の金融機関BNPパリバを割当先として、転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行、300億円を調達すると発表した。だが実際に調達できたのは約90億円にすぎないことが破綻時になって公表された。

 アーバンコーポは情報開示で問題を残した。まず、破綻に至るまで300億円を調達できなかった事実を公表していない点だ。投資家は、同社の資金繰りが改善したと信じて株の取引をしていた。売買高を伴って、株価が上昇する場面もあった。

 そもそもの問題は、6月に起債を発表した際、予定額を調達できなくなるかもしれないリスクを明らかにしていなかったことだ。

 具体的には、パリバと交わした「スワップ」と呼ぶ取引である。アーバンコーポはいったん調達した300億円を全額パリバに戻し、パリバがアーバンの株価に応じて徐々にアーバンに300億円を支払うという複雑な契約を結んでいた。全額調達ができなかったのは、アーバンの株価が想定以上に低迷したことによる。

 アーバンコーポは6月に起債を発表した際、資金の使途を「債務の返済」と公表しただけで、具体的な使途はもちろん、スワップの存在も明らかにしていない。使途を訂正し、スワップの詳細を公表したのは民事再生法の適用申請と同日だった。

 開示の方法は、東証が上場企業に求めている形式に基づいていた。だが現実に投資家を戸惑わせた以上、不備がある。新たな資金調達の方法はこれからも広がっていくだけに、形式にとらわれるのではなく投資家保護を最優先できる開示の方法を早急に打ち出すべきである。

 パリバはアーバンが発行したCBを株に転換して市場で売却した。一般の投資家が知らない情報を知る立場で取引したことになる。不公平な取引ではなかったのかどうか、当局の事実関係調査も必要である。

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