【柏木理佳のキャリアアップ講座】なりたい仕事は正社員？

　５年前のこと。外資系の銀行で経理を担当していて「経理は向いていないけど、絶対に転職しない。だから残業も頑張る」と、毎回、合コンに遅れてくる迷惑な独身女性（３３）がいました。

　「いったい何になりたいの？」。私はさぞかし職種やプロモーションへのこだわりがあると思い質問しました。

　なんと彼女の答えは「なりたいものは正社員」でした。「私の夢は正社員。経理の経験しかないからここで頑張って続けるしかないの」と言うのです。

　ノー天気で世の中を斜めに見ている私と違い、彼女は何事にも誠実で一生懸命。愚直なほど安定を求める性格でした。　

　確かに非正社員は増加して、３人に１人を占めるようになりました。同じ非正社員でも内訳をみると、大企業より中小企業の方が深刻で、規模が小さいほどパートの割合が増えています。

　例えば、大企業に比べ中小企業ではパートの割合が２倍近く増え、２割余りを占めています。その分、大企業より派遣社員や契約社員の割合が減少しています。

　このような環境の中で仕事をしていると、社会に対して不満ばかりが噴き出すようになってしまうのでは？　同じ会社でも正社員と非正社員の格差を直接目の当たりにすれば、正社員をうらやましくも思う非正社員は少なくないでしょう。

　でも雇用形態にこだわるあまり、本当にやりたい仕事を見失いつつある人が多いような気がします。そのことの方がもっと悲しい結末を迎える気がします。

　非正社員でもいいから、やりたいことを目指す人があまりに減ってしまうと、「仕事＝お金のため＝やりたくないことでもやる」という人になってしまいます。

　目先の雇用条件にこだわりながらも、もう一度、長期的に仕事のプランを考えてみることも大事です。（生活経済ジャーナリスト・嘉悦大学短期大学部准教授）