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日々学び、考えていることについて

ランカスター大学(英)
許 淑恵
【きょとしえ】
 如水会の皆様、いかがお過ごしでしょうか。厳しい残暑に見舞われていたという日本とは対照的に、もうすっかり涼しくなり秋の気配を感じるここ英国ランカスターに来て、5ヵ月がたちました。この間忙しさにかまけ、報告を怠ったことをお許し下さい。如水会報、有意義な統計表などわざわざ送って下さり、ありがとうございました。

 私は、ここランカスター大学で、4月から3月までの日本の学期制に合わせた特殊な留学コースに参加しています。大学が始まるのは10月ですので、5ヵ月もここにいながら、まだ本格的な大学の授業には参加していません。と書くと、この間無駄に過ごしてきたかのようですが、この間に私が学ぶことの出来たことは想像以上のものでした。

 英語力に関しては、ホストファミリーに恵まれたおかげで、話す力はそこそこ、読み書きのほうは、準備コースのおかげで、これももうアカデミックにはいっても、どうにかやっていけるだろうという自信があるほどになりました。

 しかし、この間に学んだ重要なことは、留学の主な目的の1つである語学のマスターではありませんでした。イギリスという日本の外の国で生活すること、世界中の国々から来た、さまざまなバックグラウンドを持った人とのふれあいから学んだことのほうが、貴重なように思われます。

 まず、この異国での生活から考えるようになったこととして、自分の立場というものがあります。名前からお察しの方もおられることと思いますが、私は、在日韓国人3世で、日本に生まれ日本の文化の中で育ってきましたが、国籍は韓国です。そのため、漢字で書けば1つですが、ローマ字にすると名前が2つ存在します。これまでの20年間は、日本で生活していたので日本読みの「きょ としえ」を使い、その名前に慣れ親しんできたわけですが一歩日本の外に出ると、韓国人として扱われ、韓国読みの「ホ スッケ」という名前で認識されることになります。従って、こちらでの登録もすべてその名前だったわけですが、20年間親しんできた名前を使うことが出来ないことに、疑問を覚えずにはいられませんでした。そして、自分の境遇について考えました。私は自分自身を日本人として認識しています。これからの国際化の時代に、そういった認識は不要と思われる方もおられるかも知れませんが、逆に国際化の時代であるからこそ、自分の拠点がどこなのかを認識することが大事なのではないかと思うのです。外に出てみて、あらためて自分の基盤が韓国ではなく、日本であることを認識し、その名前と国籍と文化の絡み合いに複雑な気持ちでいます。

 また、その自分の生い立ちに関わることで、こちらであらためて認識したことは、選挙権の重要性です。こちらでは、何事についても自分の権利というものがはっきりと認められています。留学のコースについて少しでも不満、疑問などあれば、必ず主張するように求められ、それが改善可能なことであれば、出来る限りのことをしてくれます。そのかわり、何も言わなければ何も思っていないものとみなされます。日本のように言わなくともわかってもらえるという様なことはほとんどありません。そんな生活の中で権利の重要性に気づき、選挙権という権利についても深く考えるようになり、生活の拠点のある国に、選挙権がないことの理不尽さに気づきました(そう、私には日本の選挙権がありません)。こうした在日韓国人の境遇をあまりに日本人の仲間が知らないことにも驚きました。こちらにきて、自分自身が、名前と国籍と文化とについて考えたことをお知らせしたかったことと、同じ境遇にあるものが、意外と多く日本にいることを少しでも多くの人に知っていただければ、と思いこのことを書きました。

 ほかには、ホストファミリーとの生活、世界の様々な国からきた多様なバックグラウンドを持った仲間とのふれあいから、自分の将来がいかに多くの選択肢をもっているか知ることができました。もちろん、その実現のために、努力ということが、如何に大切であるかも。もっと具体的にいろいろ書きたいのですが、紙面が尽きてきたことですので、それはまたの機会にしたいと思います。

 最後になりましたが、かけがえのない貴重な機会を与えて下さった如水会、明治産業の皆様、それから推薦状を書いて下さった楠木先生、マンキューソ先生、そのほか友人を含め留学に際し尽力して下さった多くの人々に心からの感謝の気持ちを述べたいと思います。皆様、本当に有り難うございました。この機会を最大限に生かすよう1日1日一所懸命過ごします。(「如水会々報」96年11月号所載)


  「帰りたくない」

 唐突ですが、これが帰国を5週間後に控えた今の私の率直な心境です。これまで10ヵ月強の滞在の間いつもそう思っていたわけではありません。むしろ帰りたい!と思ったことのほうが多かったように思われます。しかし、やっと帰りたくないと思えるようになったので、今回は、その理由と共に、末だ報告していなかったこちらでの生活について紹介したいと思います。

 ここランカスターは、大都会ロンドンから列車で約4時間、ピーターラビットの故郷として有名な湖水地方に近く位置しています。昔、産業革命のころには、貿易、工業で栄えたこの町ですが、今は大学が重要な街の産業のひとつとなっているような静かでこじんまりとした街です。退屈に思われることもないわけではありませんが、街の様子もよく分かり、余計な誘惑も少ないので、1年間の留学の場としては大変好環境で気に入っています。

 大学は街の中心から車で約10分程離れたところに牧場に囲まれて構えています。ここランカスター大学では、校舎、図書館、寮、スポーツセンター等すべての施設が一敷地内に収まっており、寮に住んでいる私にとってこれは非常に便利で快適です。また、ほとんどの友人も同様敷地内の寮に住んでいるので、留学生活のキーポイントの1つである人間関係形成にも好都合な状況を提供してくれます。ここから、電車で1時間半かけて大学に通う東京生活に戻ることを想像するのは、あまりうれしいことではありません。

 日々の些細なことから得られる達成感もここでの生活の魅力のひとつです。普段の生活からひとつ例を紹介しましょう。

 私はひとつのキッチンを10人とシェアしているのですが、そのうちの9人はイギリス人1年生、他の1人は留学生ですがカナダ人なので、当然のことながら皆英語を話します。10月初めに今の寮に移ったときは、半年間の日本人と他の留学生だけとの生活に少々食傷気味であり、イギリス人学生との交流を楽しみにしていた私でしたが、はじめて彼女達に会った時のショックは今でも鮮明に覚えています。何を言っているのか、さっぱりわからなかったのです。日本で10年間、こちらで半年も英語を学んだはずなのに、イギリス人の英語がわからないってどういうこと?私は今まで何をやってきたのかと自己嫌悪に陥りました。そんな状況で先学期はキッチンでフラットメイトに会う度に会話のできない自分に苛立ち落ち込みましたが、時が経つにつれ、彼女達のイギリス北部のくせの強い発音に慣れ、また少しずつではありましたが友人ができたということも手伝って、気持ちが上向きになり、今では楽しく生活するに至っています。こうした小さなことでの達成感は異国で生活するがために鮮明に感じられるのではないかと思われ、この刺激的な場から慣れきった日本の生活に戻るのは少々退屈に見え、ここを離れるのが惜しくなるのです。

 次に、やり残したことという点について触れようと思います。遅々としてではあれ上達している私の英語ですが、いまだ100%自由自在に操れるというものではありません。特に難しいのは講義やゼミでの発言です。ここイギリスの大学では、講義とゼミが組み合わされて1つのコース(科目)をなしているのが一般的です。つまり、私のように3科目受講すれば、週3コマの講義と、3つのゼミに参加するような形になります。ゼミでやることは一橋のゼミと似たような形で、生徒のプレゼンテーション、そしてディスカッションというスタイルになっています。一橋ではゼミは週1が基本ですから、こちらでは単純に言ってその3倍発言の場があるということになります。また、私の登録しているマーケティングデパートメントでは、グループワークが多く、なおさら学生の貢献が求められています。私は先学期グループワークを1つしましたが、正直に言ってどれだけ貢献できたかはあまり定かではありません。また、ゼミでのディスカッションにも、積極的に参加するには少々後込みしてしまう状態です。しかし、自分の中に明らかに進歩は見られるので、あと半年、あと1年いれば、もっと大学のコースにも積極的に参加でき、もっと色々なことを学べるのではないかという気がし、帰国するにはまだ早い、と思われることが多いのです。

 というように私は帰りたくなく、帰国について考えると悲しくなります。しかし、同時にほっとする気持ちも持ち合わせています。というのは、帰りたくないということは自分が本当によくここになじめた、来たかいがあった、つまり留学が成功したということを意味すると解釈できると思うからです。今は、自分だけの判断ですが、帰国後、この成果を他人にも認めてもらえるよう、何らかの形で発揮できればよいと思っています。

 最後になってしまいましたが、先日はロンドン支部の新年パーティーにお招き頂き本当に有難うございました。久々の日本食、普段話す機会のあまりない社会人の方々との歓談、そして同様に留学している仲間との会話は大変楽しくよい思い出となりました。重ね重ねお礼申し上げます。(「如水会々報」97年4月号所載)
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