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いわゆる精神病院ではない治療施設で精神科診療をやっていると、一番困るのは急性期への対応である。といって、一般に想像されるような支離滅裂で大興奮なんて症例はそうあるものではなく、またあったとしても治療以前の、社会的安全ネットワーク(要は警察ですな)の方に先に引っかかり、我々が矢面に立たねばならない場合はまず例外的である。外来だけだから初めからややこしい人は来ないのだろうと思われるかも知れないが、これはがっちりとした隔離収容システムを備えた精神病院で働いていても同じようなもので、精神科医師一人あたり、年2~3例ぐらい見るかどうか、というところではないかと思う。
精神病院の隔離システムというのは実に便利で、訳判らん状態であっても差し当たって隔離しておけばそう問題も起こらず時間稼ぎができる。譫妄などの意識障害から治療同意が得られないまま入院したふてくされ状態に至るまで、安易に隔離されるのが普通である。特に後者の場合で、ひどい退行状態にいると言うよりは、一種の氾レジスタンスを実行しているような人がいて、こういう人に安易な建て前で接しても、全存在をかけて破壊活動を目論む。精神病院の古典的な治療理念など振り回しても困った巌窟王が生まれるだけで、長期的には病院側にはまったく勝ち目はないのである。
私の外来には、周辺地区の精神病院で華麗にして無意味なゲリラ活動を繰り返してきた志士たちが何人も通ってきているが、本来の疾患によるハンディを除けば、皆そろって普通以上の知性と個性と感性に恵まれている人たちなのである。疾患治療のためならば、その知性と個性と感性をしばらく封印しろと意味なく求められるのに我慢できないという、当たり前の反応ながら、普通の治療者から見れば救いがたいこらえ性のなさが、治療的雰囲気を破壊する問題患者だという根拠となるわけだ。
こういうタイプの人々への対応方法は二通りしかない。一つは徹底的な弾圧であり、もう一つは協調路線である。我々には幸いなことに向精神薬という強い味方があるので、軟弱な相手なら徹底弾圧路線は容易である。老人の性格変化などはまず連戦連勝。知的障害なども敵ではない。勿論、その家族とは、きっちりと統一戦線作りをして置かねばならないのは当然であるものの。ところが、こういう例に無意味な妥協をして、問題をこじらせている治療者をよく見るのも事実なのである。
協調路線をとる場合、実際はこちらの方が圧倒的に多いというか、これを基本にするしかないのだが、必要なのはやはり情報の開示である。治療がどんなメリットを相手に与えられるか。どの辺が確実で、どの辺にバクチの要素があるのかをちゃんと伝える必要がある。説明はしばしば統計を根拠にするしかないが、これは要するにバクチでいえば出目表の開示なので、そこで最終的に判断するのは患者の側だと言うことを忘れてはいけない。
もちろん、相手の選択といってもそれは自分の賭場ルールの中で判断するのが前提なので、丁半を争おうとするとき、いや俺はダイヤのエースにしてくれと言うような要求には、お客さん、ちょっと勘違いしてはいませんかという程度の方向付けは必要であろう。そこで折りが合わないのに、引き留める事はない。それなのに、妙な薬物信仰だけをつのらせるような方針をだらだら続ける治療者が多いのも、これまた事実。
本当は重症うつ病における電気けいれん療法(ECT)の話をしようと思っていたのに、話が拡散してしまった。自殺念慮が激しく、といって古典的精神病院に紹介してもまずこじれるだけだろうと思えるような例の場合、本人と家族の理解が得られればこのECTという方法は実に有効なのである。今まで、家庭用の100V交流をそのまま流すような装置しかなかったため、よっぽど切迫した時にしかこの方法を使ってこなかったのだが、このたび、半導体によるパルス波刺激が出来るサイマトロンなる治療機器を病院が購入してくれた。そんなわけで、その使用経験を書いてみようと思った次第。
メインは次回と言うことで。話がまとまらなくてゴメン。
投稿者 webmaster : 2006年08月04日 23:58
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>サイン波に比べてパルス波が何故いいのか
その2.その3で詳しく触れたいと思いますが、要は、けいれん誘発がより少ない電流刺激で可能という点ですね。当然、脳へのダメージも少ないのです。
もう一つかなり重要な点がありますが、それは後ほど。
投稿者 webmaster : 2006年08月07日 23:15
ECTは有用ですね、確かに。
はかせは何度か重症の鬱病患者にECTの麻酔かけましたけど、結構いい結果を得ました。
サイン波に比べてパルス波が何故いいのか、少し解説もらえたら嬉しいです。麻酔はどうされていますか?ラ○ナールですか?
投稿者 はかせ : 2006年08月05日 02:20