オリンピックは、秘めた可能性を追い求める舞台でもある。選手たちは力を尽くして限界に挑む。北京でも歴史に残る大記録が生まれた。新たな扉を開く先駆者たちに拍手を送りたい。
北京五輪でひときわ輝く金字塔が相次いで打ち立てられた。陸上男子百メートルでジャマイカのウサイン・ボルト選手が驚異の世界新記録を樹立。続いて米国・競泳のマイケル・フェルプス選手が八種目制覇を達成したのだ。
ボルト選手の走りはまさに圧巻だった。二位以下を大きく引き離し、史上初めて9秒6台に入る9秒69でゴール。歓喜のあまり、ラストは大きく減速しながらの快記録は、最速の歴史が新たな時代に入ったのを鮮烈に感じさせた。
フェルプス選手は自由形、バタフライ、個人メドレーとリレーでこれも史上初の八冠を果たした。これまで一大会での最多金メダル獲得記録は、ミュンヘンで同じく競泳のマーク・スピッツ選手が樹立した七冠。さらに、五輪での通算金メダル数でも、アテネと合わせて十四個とし、これまでの最多記録の九個を大きく上回った。
フェルプス選手は九日間で十七レースを泳いだ。ボルト選手は極限のプレッシャーをあっさりはねのけた。体力、技術、精神力をそれぞれ完ぺきにそろえなければ、この厳しい状況は乗り越えられない。まさしく限界に挑み、壁を破ったのである。人間が秘めている可能性がまたひとつ掘り起こされたというわけだ。
フェルプス選手の八冠は三十六年ぶりの記録更新だった。不滅と思われた記録もこうして打ち破られていく。人間は常に前進し続けているのだと、あらためて実感させられる二つの快挙だった。
選手たちは四年に一度の大舞台にすべてをそそぐ。その並外れた情熱が限界を超えるエネルギーを生むのだろう。オリンピックとは不可能を可能にする、特別な場所でもあるようだ。
今回の大記録もいずれ破られるはずだ。高い壁にひるまない者たちがまた必ず登場する。その繰り返しがけっして止まらない前進を生み出す。記録達成はスポーツの出来事にすぎないが、同時にこれは人類の進歩の歩みを象徴しているようにも思える。
不可能に挑み、未知の領域にわけ入る列に、ぜひ日本選手も加わってほしい。それは間違いなく、元気をなくしがちな社会に活気をそそぎ込むはずだ。
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