連日熱戦を繰り広げ、日本中を熱くしている北京五輪は折り返し点を過ぎ、後半戦に突入した。
前半戦を振り返り、最も強烈な印象を残したのは競泳男子で史上初の8冠に輝いた米国のエース、マイケル・フェルプス選手だ。
競泳は五輪の最大のスポンサー、米国のテレビ局の要請で午前中に決勝を行う変則な日程を組んだ。米国内の夜のゴールデンタイムに放映時間を合わせたためだ。選手は難しい調整を迫られたが、フェルプス選手はそんな不安をみじんも感じさせない力強い泳ぎを見せた。リレー2種目を含め出場8種目中7種目が世界新記録での優勝。中身の濃さでも五輪史上に例のない金字塔を打ち立てた。
日本のエース、北島康介選手のアテネ五輪に続く百メートル、二百メートル平泳ぎの連続2冠も見事だった。最終種目の四百メートルメドレーリレーでも日本の2大会連続銅メダルの原動力となった。
日本競泳陣が獲得したメダルは金2、銅3の5個にとどまり、アテネ五輪の8個を下回った。しかし、北島選手の世界新1個を含め男女17種目で日本新記録が出た。五輪本番で自己ベストを更新した選手が多かったことは評価できる。
好記録ラッシュは水着の影響も大きかったのだろうと想像される。フェルプス選手も着用した英国スピード社製の新水着「レーザー・レーサー」は予想通りの威力を発揮した。北京五輪で誕生した個人種目の世界新記録19個のうち17個はこの水着を着用した選手がマークした。日本新記録も個人種目はすべてスピード社製の水着を着用した選手の記録だった。
五輪後半戦のメーン競技、陸上はいきなり驚異的な世界新記録の誕生で幕を開けた。世界最速男を決める男子百メートル決勝で、ジャマイカの21歳、ウサイン・ボルト選手が9秒69の世界新記録を打ち立てた。
しかも「記録より勝利」を優先したボルト選手は、ゴールの20メートル以上手前で勝利を確信すると、両手を広げ、胸をたたく仕草まで見せた余裕のフィニッシュだった。
「この選手はどこまで記録を伸ばすのか」という楽しみを今後につなげた余裕の走り。人類を9秒6台の新たなステージに導いたボルト選手は、人間の「限界」をさらにぐいと押し広げてくれた。
五輪後半戦は陸上競技、シンクロナイズドスイミングなどに加え、野球などチーム競技も佳境を迎える。世界の力と技と美の競演をまだまだ楽しみたい。
前回アテネ五輪で日本が金メダルを獲得した16種目は17日までにすべて終了した。後半戦は日本勢の苦戦も予想されるが、世界中が注目する最高の舞台で戦えることの喜びを力に、自己の限界への挑戦を続けてもらいたいものだ。
毎日新聞 2008年8月19日 東京朝刊