あかいあくまと正義の味方 学園生活編
〜その0 前編〜
上履きから靴に履き替え、校舎から出た。
「行こう」
「うん」
傍らには大事な……、ついさっき、一年後には一緒に倫敦に行くことを決めたばかりの遠坂が居る。
一月ぶりにふれあった大事な……
ちらと遠坂を見る。
遠坂からフライングしてきたんだし……それに、その、こ、こ、恋人同士なんだし、いいよな。
そう、自分に言い聞かせると、おずおずと左手を伸ばし、遠坂の右手をそっと握る。
遠坂は驚いた顔でこちらを見ると、ぎゅっと握り返し、そのまま体をこちらに寄せてきた。
うわぁ……。
正直、怒られるかと思っていたのに、こんな……嬉しいよりも恥ずかしい。
思わず手に力が入る。
「痛い」
「ご、ごめん」
と、手を離そうとすると、ぐいと俺の手を引っ張り、
「……もっと、優しく、捕まえてよ」
と顔を赤くしながら言う。
「あ、ああ」
つまりそれは、手を握っていて良いと言うことで、俺はうれしさのあまり真っ白になった頭で何とか答えを返した。
「お、衛宮、良いところに、ちょっとあたしの弓を……ええ!」
いきなり声をかけられた。まずい! 見られたか。
「美綴……」「あ、綾子」
とっさに遠坂を背後に隠しながら向き直った俺の前には、美綴が居た。
助かった、こいつなら事情を話せば口をつぐんでいてくれ……。
「あんたら、ひょっとして……、いつからよ、ねぇ、いつからよ!」
なぜか血相を変えて詰め寄ってくる。こいつ、一体どうしたんだ?
「あ、ああ、2月頃から……」
「何ですって? 遠坂、あんたそんな頃からつきあっててなんで今まで……」
俺の後ろで赤くなってもじもじしている遠坂、まだ不意打ちから立ち直ってないな。
俺は少しでも落ち着けるようにとぎゅっと遠坂の手を握ると、
「別にいいだろ、そんなこと。いちいち人に話すようなことじゃない」
と言ってやった。
しかし、
「いや、この件に関してだけは特別な事情があるんだ。ことをはっきりさせる必要がある」
「何だよ、それは一体」
「ふむ、ここではな」
「いいわ、後で、うちにいらっしゃい。そこで決着をつけましょう」
慌てて遠坂の顔をのぞき込むと、どうやら復活したらしく、いつもの顔に戻っていた。
「なになに? 遠坂の家で決着をつけるって? 悪いけどどうもあの洋館は……」
「士郎の家のことよ、依存無いわね?」
思わず口笛を吹く美綴
「おい、まさかおまえら同棲してるんじゃ……」
「い、いや、離れに部屋は用意しているけれど、たまに来た時使ってるだけだぞ、それに夜遅くなったら、ちゃんと送ってってるし」
「ばかっ」
どうやらよけいな一言だったらしい。美綴がすっかり固まってる。
「あ、あー、一応このことは内密に頼む。藤ねぇにも口止めしてあるし」
「あ、ああ、判った。じゃぁ、後でな」
そうして、美綴はなぜかよろよろとしながら弓道場へ歩いていった。
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