minibanner
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 あれから2日たった朝。カロムはまだ国内にいた。



 雨が降るのは
   風が吹くのは
    寂しい心誰か呼ぶから


カロ「おかん・・・・・・・・」
懐かしい子守歌。しかし歌っていたのはおかんではなく
自分が見た夢だと気づいてちょっと悲しくなる。

そんな夢心地も終わって
あ、もう朝かと起きるカロム。
さすがに竹林で眠るのは色んな意味でしんどい。
身体が痛い。なんかちくちくする。
目が開きづらい。
涙のとおったあとが渇いて引っ張る感じがする。
立ち上がるとクラクラと一瞬世界が揺らぐ。




結局カロムは、おかんにあってから国を出るか、そのまま生まれた祖国を出るか
さんざん迷ったあげくにどちらも出来ずに国内にとどまっていた。
今日中に国を出なくてはおかんや兄ちゃん共々犯罪者になってしまう。
どうしようどうしよう。チャンスは今日だけ。
けど2日丸々悩んで出なかった答えだ。
そう易々と決心というものはつかない。
今決めなくては!とおもうと余計パニックになるカロム。


ここ2日間モノも食べずにただただ歩いて、考えて、泣いて
疲れが蓄積されてるせいかが上手く働いてくれない。
久しぶりに見た倫屋の外の世界も、
今のカロムには大きすぎて孤独感を煽るだけになっていた。


ボーっと考え事をするカロムの耳に「キャッキャッ」とはしゃぐ声が聞こえた。
竹林のちょっと下った所は民家があって
そこで母親が草笛つくり、子供はそれを楽しそうにならす。

いまはたまらなく人が恋しいせいか、そんな様子を竹林の中からじっと見つめるカロム。
幸せで健康そうなを子供見ていると、
なんだか自分がとってもみすぼらしく卑しい人間に見えた。



こんなみすぼらしい息子にあってもおかんは喜ばないだろう、
それに売られた子供が帰ってきたと周囲に見つかったら
おかんも変なうわさたってさぞかし辛いだろう。
カロムは思った。







カロ「この国・・・・・でよ・・・・・・・」











国境近くの山道。カロムは国境に向かって必死で急な道を進んでいた。
山道とはいえ一日もあれば超えられる国境だ。
一応丁寧にも国から移国手続をもらっていて普通に
隣国に入国することが出来るのだがあえて山から国境を越え
あとで隣国の役所に届ける方法をとることにした。



最後にこの国を見渡しておきたかった。
おかんが見えるような気がした。
もう二度と見られな景色を最後に目に入れておこうと思った。

足が限界を迎えた頃程なくして視界のへ開けた場所までついたようだ。


カロ「うぁ・・・・もう最後なんやな・・・・・・・・」
最後に見る御国。カロムはよく見ておこうと思った。


しかしカロムの目に入った風景は尋常なものではなかった。










 湖(うみ)が紅い。めちゃめちゃ紅い。
 燃えとる。湖轟々燃えとる。
 見渡す限り赤。赤。赤。
 足下まで紅い。

 国が紅く染まっている。





カロ「な・・・・・・・・・なんやこれ・・・・・・・」



想像もしなかった紅い景色

足下に小さく見える街があちこちで炎をあげている。
見渡す限り国中が燃えてるみたいだった。
山道のぼってる間に何が起こっていたのか
目をこらしてあちこち見てみるが全くわからない。
ただ煙と炎と、紅い湖が目の前に広がっているだけだった。
湖の対岸に一段とすごい煙を出している場所を発見する。

カロ「倫屋の方角からや・・・!!」

どないなってるの!?
どないなってるの!?
どないなってるの!?

先生は?ハチは?おごつぁんは?
おかんは?にいちゃんは?


誰もカロムの問に答えてはくれないようだった。
ちかくまでパチパチという音が聞こえてくる。



たまらなくなって叫ぶ。

カロ「おか━━━━ん!にいちゃ━━━━ん!」

カロ「はちぃ━━━━!!おごつぁ━━━━ん!!」





おっさん「あほーっ!!そないな目立つとこつったってんねやないでー!」

いきなり丘から引っ込んだ森の中当たりまでおっさんに降ろされるカロ

おっさん「はぁはぁ・・・・坊!無事か・・・・・っ家族は・・・・」

カロ「ど・・・・・どないなってるんですか!?」

おっさん「俺かてようわからんわっ!!なんや俺がふっつーに飯喰っとるとこ
     変な格好しよるやつらがガー攻めてきよって・・・・・・・・!!
     銃とかガーンガーン打ち込んできよった
     あとなんや刃物みたいなようわからんもんぎょうさん持っとった」

おっさん「俺の目の前で仕事仲間二人やられてんねん」

カロ「うぁぁ!!?え・・・ちょ・・
   ホンマどないなってるかようわからへん・・・
   そのへんな格好した人たちがこないなコトしたんですか・・・・・?」

おっさん「多分そや。あいつらがきやろが爺さんやろが容赦なしや。
     あいつら武器持っとるし車や、俺も命からがらここまできよったん」

おっさんの脇腹には直視するのも恐ろしいくらいえぐられた生々しい切り傷があった。

カロ「うぁ・・・おっさん・・・・ひどいケガやんか・・っ
   あっちょ・・もしかしたらバッグに何か入っとるかも!!」



2日間ただ持って歩いただけのバックを初めて開けるカロム。
包帯代わりになりそうなもの探す。



おっさん「おおっ・・すまへん・・・」
木によりかかるおっさん。

おっさん「・・・・・ここ来る途中グジャグジャになった家から
     これ・・・・・ラジオ持って来てんねんけどなにもやってへんねん・・・」

がちゃがちゃとラジオいじくるおっさん。

おっさん「あ、音きたか・・・・くそっ隣国の電波かいな。気楽なもんや。」

ラジオから一瞬明るい音楽が流れたが、
なんだかこの場面に不似合いで逆にこんな怖い目に遭わされてるのは
自分たちだけ何じゃないかと変えて不安にさせる音楽だった。

おっさん「うちに女房子供いてんねんけど
     ・・・・・・あいつはだいじょうぶやろか」

カロ「・・・・・・・・・・・・」

おっさん「あーくそ!なんでいきなりこないな目に
     遭わんとあかんねん・・・・・・
     何が起こっとるか右も左もわからへんし、どないせっちゅねん」


パニックになった手は思うように動いてくれなくてもどかしい。
後ろではおっさんが血ぃ流してとっても苦しそうにしてると思うと余計手が引きつる。
はやくせな。はやくせな。
生活に必追う最低限の荷物や食料が入ったバッグを一心不乱になって
包帯代わりに出来そうなものを探す。
ふとあるモノを見て手を止めるカロム。




おっさん「なぁお前もわかるやろうけどあとちょっと歩けば国境や。
     いったん坊も俺も他の国に保護求めた方がええ・・・・!!
     ちゅかホンマなんやねん・・・・・・・・つっ」


カロ「あ・・・・・・・・」


カロムによってバッグの奥から引っ張り出されたのは
湖国の紋章が入った長い首巻きだった。
兵として認められてものにしか与えられないはずのものが入ってた。

カロ「なんでこれはいっとんのですか・・・・・・・」

だが、そんな悠長なこと考えてるひまはない。これは包帯にピッタリだ。


カロ「おっさんええものがあっ・・・・・・・・・・・・・・・」

振り返るカロム。




おっさん「坊・・あほ・・・逃げぇ・・・・・・・・・・・」


おっさんを貫通する一本の長い刃物。
そしてカシャカシャと渇いた音が響く。


男「あーくそっ後ろ向いてる間に頭からぐさっといこうと思ったのにー!」


おっさんから刃物を引き抜く男。
引き抜いた瞬間噴水みたいに血が飛んだ。
溶けたアイスが下に落ちるみたいに刃物からずれ落ちて
ぐしゃっと音を立てるおっさんの身体。

紅く濁った液体があっちこっちについて、そこだけ気味が悪くあったかい
この悪夢みたいな出来事が現実であるということをいたいほど思い知らされていた。


カロ「う・・・うあぁぁぁあっ」


見上げた先は何とも不思議な格好をした血まみれ男だった。
もちろん男に付いた血は男のものではないらしい。
紅く濡れた長い長い刃物。並々ならぬ殺気を帯びた目。
目が合う。笑う男。
カロムは逃げることも叫ぶことも出来なくなっていた。



男「あーちきしょーこっちはこんな森の中まで探してやったって言うのに
  ケガ人とガキ一匹かマジつまんねー・・・・・・・」



その男は何度も舌打ちしながら
片手にはボタンのいっぱい付いた光沢質の薄っぺらい棒のようなものを持って
しきりにボタンをたった一本の指で叩いていた。
おっさんの死体をとなりにその不気味な光景をただただ見てることしかできなかった。
その変な物体を耳に当てて男は話し出す。


男「あーもしもし俺ーおまえどうよ?俺全然ダメー
  そっちマジでーいくね?えーどんなん?おくっておくって!
  うはーきたきた!すっげ。つかマジグロいって」

男は長いことその謎のものに向かって話し続けていた。
この国の言葉じゃないし内容も全くとんちんかんだ。

カロ「おじさん・・・・・・・」

動かなくなったボロ切れみたいになったおっさんを見て、
次は自分もこうなんねやなと恐ろしくなった。



男「じゃあおれもガキのグロ画像送るから〜うんまたー」

ピッ


男の話が終わった。
こちらを向いてニヤリと笑う男。



ゆっくりとカロムの顔に影を落としながら刃物が振り上げられる。