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甲賀忍者倫屋━━━━
滋賀湖国は代々甲賀忍者に代表される強靱な兵力で守られてきた。
その兵となるものを育てているのが甲賀倫屋である。

5〜8歳くらいの子供のウチからただただ強い兵になるためだけに
一人前と認められるまで外に出ることも許されず
ただただ辛い訓練を繰り返すだけの日々を送る場所である。

元々は志願者のみで構成されていたが
ここ数年は物価の上昇と近隣国からの圧力のため倫屋に
口減らしとわずかな収入のために、子供を売る農民が増えていたそんな時代。


少年が倫屋に入って10年の年月が流れていた。



先生「簡単やろ〜。そこにある木みんな跳び終わったか〜?
   その木はな〜毎日アホみたいに成長しよるさかい毎日跳んでれば高こう跳べるようになんで〜
   近江の忍者はみんなそれやってねんで〜」


門下A「せんせ〜い。もうそれ俺らでけへんです〜」

先生「あほ〜!そんなんもでけへんのか。こりゃ基本中のきほ・・・」

門下B「カロが潰してまいました〜」 

先生「・・・・・・・・・またおまえか・・・!!!!」

カロ「ふあっ!(地面に刺さってた顔を抜いて)すすすすすすす・・すまへんですぅ!はわわ
   にぎゃ〜〜〜〜〜〜!お・・折れてぇ・・ふあ〜〜〜〜〜(目ぇくるくる)
   すまへんです!すまへんですぅ〜!(木に向かって)」

周り大爆笑

先生「もお、お前あとでなおしとき・・・しゃーないなぁ。じゃ、午前はこれまでやな
   飯食ったらよその訓練所来ぃ」

先生行ってからどこからともなくこえが挙がる
いじめっ子A「50M9秒8〜〜!!!」なじるような声

カロムは体格が良い倫屋の門下生達のなかで、
一人だけ忍者のそれとはかけ離れた痩せっぽっちで、
みんなの肩か胸くらいしか身長がなく、
根本から日に焼けたような変わった髪の毛の色をしていたし顔も女々しかった。
運動能力も一般人にすら劣る。
そこをいつもいじめっ子達から馬鹿にされるのだった。
次々といじめっ子が同調してカロに詰め寄って悪口言う。



いじめっこB「こいつあれやでこの前の測定で握力18しかなかったんやで」

まわり「まじで〜〜〜〜!?」大爆笑。

カロ「あううう・・・そないですけどぉ。ううう・・・」


そこに別の班の二人が終わってくる

雄琴「お前ら何やってんねや!またカロいじめて遊んでんなげんくそ!」

八幡「カロ〜!こんな奴らと口聞いたらあかしんゆうたやン」

いじめA「なんやお前ら。元々いじめられっ子のくせにケンカうっとん・・・」

カロ「おごつぁん〜!はち〜!ふわわわ・・・っ。せやせや
   (いじめっ子に向かって)それや僕食事当番やさかいいきまんね(ぺこり)」




いじめっ子ら「・・・・・・・・・・わからん。なんやあいつ・・・」

近江先生「おいお前ら何しとんねん」

突然のドスのきいた怖い声に震え上がるいじめっ子達

いじめA「うわわ!近江先生・・・・・・
     え・・・!いや俺らはいたって普通ですよ!!」
いじめB「はい!なにもしてへんです!!」

近江先生「そうか・・・お前ら変なコトしよったらただじゃおかへんで」

かつかつと下駄を響かせて去っていく近江先生。
この倫屋の支配人であり、かつて英雄と呼ばれたこの国の誇る
最強の忍びであった近江先生は怒らせるととてつもなく怖く
倫屋の門下生はみんな怖がっていた。


いじめB「・・・・・・・・・・・近江先生まじこえー!!」





食事。外は梅が咲いてすがすがしい日。ほのかに香ってなんだか今日は気分が良い。
みんな中で食べてるけどカロ、雄琴、ハチの仲良し三人組は外の
板が張ってあるしたは小さな木くずなんかの物置の上に盆にメシ載っけて食べてる。
ちょっと前まで全員いじめられっ子だったため(一人未だに)
中で食べるのはしのばれるのだ。
二年前に三つあった班が班統合してから三人は仲がよくなった。
それから頑張っていじめられないようにはしてるのだが・・・・

(ちなみに6〜10歳位まではもっと細かく班分けされていた。
歳があがるごとに大きなチームワークがくめるように班をだんだん統合するシステムらしい。)




雄琴「も〜!ホンマなんやねんあいつら〜っ!カロばっかいじめよって〜!」

八幡「カロももう少し抵抗せなあかしんで」

カロ「あっ!ちゃうんですよぉ。僕が訓練に使う木折ってもうたんです。
   あっ二人ともホンマ心配してくれはっておおきに。」 

雄琴「う〜カロ優しすぎやわ。もっと怒れ。今度やったらいてまうで〜みたいな。くあ〜〜〜〜〜」

八幡「ははははは。そらカロににあわんやろ〜」


カロムいじめっ子達がこっち見て噂してるのが見えた。
多分悪口言うてんのはわかったけど「なんやろ?」と思っただけで何とも思わなかった

カロ「・・僕弱っちさかいガンバらな・・・」

八幡「俺カロはそのまんまでええキャラしとると思うで。変に変えんくてもええて。
   せやけどお前あれやな。お前作るメシうまいやン。お前将来メシ屋になったほうがエエんと違うか?」

カロ「メシやかぁ・・・・(謎の想像図が広がる)」

声のトーンがさっきよりちょっと下がって

雄琴「・・・アホ。俺らに将来の選択権はないの知ってんねやろ。
   俺らがここ出れんのは大人になって忍者になるか・・・」

八幡「しっとるわ。(立ち上がって)ちょっとふざけてみたん。はいごっつぉさん。
   先片づけとるな〜カロまた食うの遅れんなや。」 

カロ「・・・????(ハチが行ってから雄琴によって)ちょちょ・・・ええですか?
   あにょう。おごつぁん。ここ出られんのは忍者になるか・・その他はなんでっか?」

雄琴「はぁ〜〜〜〜〜っ!?お前そんなンも知らんと十年間もここに入ってたんか!」

カロ「こくり」

雄琴「・・・・」

  「倫屋の決まりや。大人になるまでにここの免許皆伝をとれんかった
   忍者予備はぁ・・・・・・・・・・・・」

  「・・・・殺されるンや」

カロ「!!!!!!!!はわわわ・・・!そ・・・そらホンマで・・・」

門下手帳を出して

雄琴「読んでみ」

|壱拾八までに倫屋指定の免許皆伝に値しないと判断された者は、
 倫屋の長のにより早急に処分される。|

雄琴「いわゆる間引きと情報保護やな。
   18まで育てても役たたんヤツまだ育てンのもてぇかかるし。
   かといって追い出せば倫屋の内部情報ほかのヤツに漏らしかねんやろ。そういうこっちゃな。
   俺らもあと三年や。がんばらんと・・・かろ?おいカロ!?
   ハチ〜〜〜〜!カロがおかしい〜〜〜〜!」

ハチ「ぎゃ〜〜〜〜ほんまや〜〜〜カロが土偶っぽいで〜〜〜〜〜」


わたわた




その日の夜。倫屋は八時消灯である。
少年達には娯楽らしい娯楽がないため修行が終わればちょっと話して寝るだけだ。
ふと目が覚めて


雄琴「かろ・・・どないしたん・・・」

カロ「(びくぅっ!!)あ・・えっと、ちょっと厠へ・・・」

雄琴「そ・・・・お前最近よく・・・ごもごも」

カロ「・・・・・(だーーーーーーーっと走り去る)」

カロ「ぷわ〜〜〜〜〜〜〜〜!
   あかしん!あかしん!このままや僕確実に免許皆伝もらえへんですわ〜〜!
   今日からいつもの二倍・・・いや三倍はガンバらへんと・・・っ!」

カロはみんなより遅れていることを自分でよく理解していたので、
いつも夜中になると一人、近江先生お部屋の前のちょっと山になっているところで、
練習復習を重ねていたのだ。まあ成果は見られないところが笑えるが・・・・・。



カロ「よ〜し今日はジャンプの練習しまひょ!壁くらいド〜ンと飛び越えられなあかしん!」



カロが頑張っていたそのころ
暗い倫屋内で一カ所だけ明るい近江先生の部屋。

先生「ついに来よりましたか・・・・・はい。あーそないでっか・・。
   そちらはんの準備はやたらできとるようでんな。
   こっちには何もよこさんと子供らは丸腰で戦えゆうんでっか。
   子供らお国のため思うて楽しいことも知らんと何年も同じ服きてキバっとるんやで・・
   おまはんらそれを・・なんやと思うて・・・・・・っ!  
   (ぷつ)・・・・・・・・・・・。」 

先生「くそ!・・・・・何やもう腹立たし・・・」

先生「ホンマ何のためにあいつらは死ぬ気で気張っとると思うとんねん・・・・・」




カロ「よし!調子乗ってきましたえ〜!このっ!調子ならっ!だんない・・・・・・・・っ
   (こけっ)・・・・・・!?」 

   山から転落するカロ




先生「(ぼそぼそと)みんな大事なワシの門下や・・。選べといわれて選べるかいな・・・・。」

カロ
「にぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」


カロぽちゃーーーーーーーーーー!!!
どばーーーーん




運良く池に転落したカロ。しかし。
カロ「ふ・・・ふああああああ・・・・・たたたた助かったぁ・・・ぽっきゅ〜はぁはぁ」


ごごごごごっごごごごごごごごごっご・・・・・・・・・・


先生「消灯時間はとうの昔に過ぎとるはずやろ!!
   なにこないな夜中にギャーギャーやっとんねん!ああ!?なにやっとんねん!」

先生怒るとめちゃくちゃ怖い。

かろ「(口から見ずぷーぷーはいてる)す・・・すすすすすすまへんどす〜・・・・・・・・」




・・・・お説教

先生「決まり守れんゆうのは和を乱す行為や!わかとんのか?!」

カロ「・・は・・・・・・はい(ぺこーーーーーー)←頭あがらない様子」

先生「なんであないな所であないな時間におったん!九時消灯は決まりやろが!
   なんで守られへんねん!あほぉ!何しとったん言うてみ
   答え次第じゃただじゃおかんで」

かろ「・・・・・・・しゅ・・ぎょーです」

先生「なんやお前!昼の訓練じゃ力つかんゆうんか!?それやったらお前だけ明日から別の・・・!」

  (あわててさえぎるように)
カロ「はわわわっ!ちゃ・・ちゃうんです!反対です・・・!僕・・っあの僕ほら体力あらへん
   せやから昼間みんなについてかれん事があるんです・・。ちょっとでも追いつきたくて・・・」   

先生「・・」

カロ「・・・す・・すまへんです!先生!(ぺこ〜〜)」

しばらく沈黙が続く。ドツかれてもしかたないと思って覚悟しているカロ。

先生「あ〜一つエエか?たしかお前、ずいぶん前にきた今津の茶農家の子ちゃうか?
   多分今津は一人だけだった」

カロ「・・・え?えええええと・・なんで・・え!は・・はい!僕今津の出です」      

先生「お前・・・まだ生きとったんか!」 

カロ「!!?ふがっ」

先生「あ・・すまん。せやけど、売られてきたときお前体弱い言われてたさかい、頑丈なヤツでもくたばる 
   訓練についてかれひんくてイてまった思うた。あーあん時のあのガキか。
   売られてきたとき、泣きまくっとる親の前でニコニコしてなぁ。最初このガキ
   脳足らんちゃうかおもた。したらお前、親が行ってもうた後でガー泣き出しよってなぁ。
   覚えてるか?あん時のこと。」 

カロ「お・・おぼえてます。は・・うれしいです。僕みたいなアホのこと覚えてくれてはったんですね」

先生「僕まで泣いたらおかんや兄ちゃんに迷惑かける〜ってな門の裏っかわでビービー泣いとったなぁ。
   お前売られたくせになんであそこまで親気ぃ使うん?他のヤツは親向かって「くたばれぇ!」
   「なんで俺売んねん!」位言うてくで。しかもお前体弱いらしいやんか、恨んでへんのか」

カロ「お・・お兄ちゃんが病気なんで・・僕の家貧乏ですし・・」

先生「虚弱なお前が今までどうやってここまできたん。お前らの班じゃ一人もでてへんけど
   同期でホンマにいてもうたヤツもいんねんで。甲班の待田ってやつとか・・・」

カロ「・・・それホンマでっか?(がくがく)」

先生「ホンマや」

カロ「そうですね。なんででっしゃろ・・あう〜〜僕みたいなヤツが・・生き残るなんて・・
   僕みんなに体力ではかなり負けてますさかい、気張らな〜って気だけで持ってきましたから・・・
   あっ気力!僕気力でこーガーッと・・・・・ハイ!」 






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ちんもくがはしって)








先生「(いきなりふきだして)アホか!あんだけの訓練を気力だけでこなせるかいな!
   ワシも若い頃同じ訓練受けとんねん。あんなの体力に自信あったワシでもめっちゃ
   死にそうやったのに気力で体力カバーするなんて・・・お前結構筋肉とかあんねやろ・・


腕をつかむ近江先生。しかし次の瞬間あまりにカロの手がか細いのでびっくりする。


カロ「僕忍者になって大好きなオカンやお兄ちゃんがおるこの国守りたいです!
   この国守れるならこれくらい・・・って思うただけで頑張れるんです。えへへ」


先生「・・・・・・・・・・・・・・・・」   

カロ「先生?」

先生「もしかしたらお前近々用事頼むかもしれんわ・・。あー気にせんでくれ」

カロ「はぁ」

先生「もうエエ。服も乾いたやろ。部屋戻りぃ。」   

カロ「はいっ!あ・・先生すまへんどしたっ!」

廊下を急ぎ足でぱたぱたして帰ってくカロを見送りながら物思いにふける近江先生。






朝。あわただしい朝。5時半起床。服の準備、寝床の整理、朝ご飯。
みんなみんな6時ぴったりまでにやらんといけない。
外はなんだかのどかな朝の風景なのに倫屋の中はもうとにかくあわただしいいつもの朝。

雄琴「なんやカロ〜〜〜こらおい起きんとあかしんて」

カロ「ぷわわ・・・・っあう・・朝りゃ〜・・おごつぁんおはようさ・・ぐぽ〜〜」

雄琴「あかんこら二人がかりで運び出すしかないな・・・。」

ハチ「夜中ずいぶん長く厠行っとったからちゃう?」

雄琴「お〜い今日は花火やで〜花火花火〜はなはな・・・」

カロ「花火っ!(がばっ)」

ハチ「おきた〜〜〜〜っ!」

倫屋には娯楽がない。そして外にもでられない。
しかし年に春と夏の二回だけ訓練を午後の部休んでの(小さな)花火大会がある。
その日は昼食も少しだけ豪華なモノがでるのでみんな楽しみにしていた。


先生B「今日は午後休みやさかい午前気ぃ抜くんやないで〜!」

門下「は〜〜〜い!」


しかし先生達も門下も結構うかれている。
そんな中カロは喜んでるのと眠いのが半分半分になって変な顔になっている。
朗らかでエエ日。
こんな日がずっと続けばエエのに・・。ぼけ〜〜〜〜〜
おいしいお昼をみんな急いで食べると(相変わらずカロは遅いが)しばらく休憩時間。
(ふだんはない)。花火は夏の夜もエエ。せやけど梅の下夕暮れにやるのもエエなぁなんて思っていた。








近江先生の部屋。
なぜか一所懸命、若者用の大きなスポーツバックに色々モノ詰めている。
先生「(時計見ながら)もうそろそろかな・・・・」
外はゆっくりと空が薄茜に、雲が群青がかった色になっていく。






うってかわって、先生の花火を詰めた汚いワゴン車が到着して騒がしくなる正門前の広場。
いつも厳しい顔しか見たことない先生方がニコニコしながら花火を門下一人一人配っていく。
カロも、前に殴られたことあるからちょっと苦手な先生から花火(百円ショップで売ってそうなヤツだけど)を怖々受け取る。やっぱりいつもはもらえないモノもらうとうれしかった。
 梅がぱらぱら落ちて夕暮れはきれいで、先にあけてる人の花火の音も火薬の匂いもなんか心地ええ。ぱちぱちの光もすごくきれいで、やっぱりこの日って良いなぁってカロは思う。でも寝不足だから眠い。 


早速三人も火をつけて遊ぶ。ぱちぱち。夕暮れの暗がりにここだけ光がぴゅんぴゅん舞う。
カラスもうらやましいかな。あちこちでいつもは聞けない先生とか門下が一緒にはしゃぐ声。しかし走り回ってるヤツ危ない。一人がもらえる花火は少なかったけど友達同士でないヤツとあるヤツを交換したりした。






雄琴「カロ、ハチ、なぁなぁ他袋ん中何入っとった?なんか中身5種類くらいあるらしいで」

ハチ「(雄琴の袋のぞいて)俺お前とちょっとちゃうなぁ。ここ線香(花火)入っとるでぇ。」

カロ「僕は・・・うぐーーーー」

雄琴「寝るなっ!」

ハチ「みんなの少ななってきたとこやし線香やろか?」

カロ「せ・・線香〜〜〜〜!僕これ好き・・・うぐーーー」

雄琴「起きろっ!」








線香花火に火をつけた直後。

門下H「ああっ!近江先生!先生もやりまひょ」





後ろ大勢「やりまひょやりまひょ」

カロ「(ドキ)」

無言のまま花火を持ったもんかをよけて近江先生が歩いてくる。
・・・・・・・こっちに。

門下「近江先生そのバッグ、なんでっか・・・・・・・・・・」

無言、しかも顔はその和やかな雰囲気に合わないほど何か圧力のようなモノを漂わせている。
カロは後ろ向きだったけど確かにわかった。


先生は自分の後ろでしっかりと立ち止まったこと。


ハチ「あ・・近江先生こんにちわぁ・・・・・」

無言、やっぱり近江先生僕の後ろにおるんやなぁ・・。
昨日のことかな?怒られるんかな?冷や汗ってホンマでるんやなぁ。なんて考えていると。






大きなスポーツバッグがカロの脇に落とされて


先生「お前は、破門や」


線香花火の首がぽたりと垂れる。









カロ「え・・・あの近江センセ・・・・・」

先生「聞こえへんかったんか!お前は破門や!お前みたいなヤツここにはもういらへん!」

雄琴「ちょっと待ってください!確かにこいつは他のヤツより成長遅いかもしれへん。
   せやけど唐突にそないなこと言うのはひどいんちゃいますか!?」

ハチ「さいです!カロは他のヤツの何倍も一所懸命です!それを何もなしに・・・・・」

先生「お前らは黙りぃっ!」

オゴ・ハチ「!・・・」

先生「こいつはもうここにおってもしゃあない!破門は破門や!」

カロ「たのんます。あっ・・ぼ・・僕もっともっと頑張ります・・っ
   せやから少しだけ待ってくださ・・・」

先生「んな時間ないわ」

そして無言になる。  

全員こちら見たまんま硬直してるみたいになった。

カロの頭の中にある一文が思い出される。
免許皆伝に値しないと判断された者は倫屋の長によって早急に処分される。
あー、やっぱり僕みたいな出来そこないは処分されてまうんやなぁ・・・
そのあとは頭の中が空っぽになって訳がわからなかった。
何か考えてももう意味がないことなんやなぁ。と





先生「ほら早よ出てきぃ!」

強引にカロの服を掴んで外界と倫屋をつなぐおおきな門へと連れて行く近江先生。
その様子を一部始終見守っている門下生と他の先生達。





カロ「・・・・・・・・・・うぁ・・・・・・」


売られてここにきて以来、久しぶりに見る天をつくような巨大な正面門
怖い。怖い。怖い。どないされんねやろ。どないされんねやろ。
足が震える。


先生「三日以内にこの国出ぇ」

カロ「・・は・・・・はい・・・・・・・・・・・・・っ」




開いていく門。

先生「お前のことは丈夫にも連絡しとる
   三日後国内おったら家族共々国家反逆罪や」

カロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先生「早よ行け!!もう二度と戻ってくるんやないで!」



・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・捨てられんねやな
もうここにいられへん。




何重にも重なった厳重な扉が開き終わり、近江先生に強引に肩持たれながら扉をくぐってく。
厳重な扉の格子ごしだと倫屋中があんまよく見えなくなってた。
格子の合間から泣きそうな顔でカロを見続ける雄琴と八幡。
振り返ってそんな顔が目に入って、グッとくる。

なんでこんな不条理な目に遭わなくてはならないのか。
なんでまた大事な人と離れなくてはならないのか。


カロ「ほ・・・ホンマ今までお世話になりました・・・・・・」




あかん。あああああ。涙止まらへん。
今までどんないじめられても泣かへんって決めてたのに。

この不条理な出来事に、どうしたらいいかわからないカロム。
けれど、言うとおりここを出てくしかない。
倫屋内では近江先生の言うことは絶対。




雄琴「カ・・・カロ!!お前それでええんか・・!こんなん俺いやや・・!!」

八幡「カロ・・・」

カロ「おごつぁん・・・はちぃ・・・・・・・・」

先生「ほら何ぼけっとしとんねん!ほよいけや!」

カロ「・・・・・・・・・・・・・・・」

カロ「おごつぁん・・・・・・はちぃぃ・・・・・・・・・・・」

カロ「・・・・・な・・泣いたらあかしん・・・っ」








雄琴「・・・・・カロ・・・・・お前なんで笑とんねん・・・・・・・」




カロ「僕なんて言う人間この世におらんかった。
   僕なんかのコトでおごつあんやハチが泣くのいやや・・
   せやから僕なんてヤツのこと・・・おらんかったって思うてください・・・・」

カロ「そ・・・・・それや・・・・・・おごつぁん・・・ハチ・・・・・・・
   いまま・・・で・・いっぱいおおきに・・・・・・っ!」




ててててててててっ

泣きながら倫屋の坂道を走り去るカロム。
その様子を瞬きをすることもなく必死になって食い入る雄琴とハチ。
やがてその姿は格子越しからじゃ全く見えなくなっていた。





雄琴「カロ・・・っカロー!カロー・・・・・・っ」

八幡「忘れぇて・・・・・・・そないなことできるかいな・・・・・・・・」








長い長い沈黙。
しかしそんな沈黙を破るように一人の門下生が
今目の前で起きた不思議を口に出した。








門下生W「・・・・・・・・・せんせ・・・なんであいつ外でとるんですか」



門下T「せや!おかしいやん!なんであいつだけ外でとんのですか!」

門下U「俺らかてめちゃめちゃ出たい!!あいつばっかおかしいやん!」

一斉に騒ぎ出す門下生達





先生「うっさい!だまりぃや!」



近江先生の一喝。・・・一気に静まるその場。








雄琴「あ・・・・・・・・先生教えたってください。カロは一体どないなるんですか?」

先生「あいつは・・・あいつは任務に就いた。」

八幡「え・・・・・じゃあ何でそう言わへんのですか」

先生「ホントにこと言うたらあいつあほやからきっともどってきてまう。」

八幡「に・・・・・・・任務?・・・・・ってなんですか
   カロは何せなあかんのですか・・・・・・・・・・・」


先生「お前達にもじきに別の任務が回ってくるわ・・・・・・・・・」

一番星が出てきた空を見ながら大きく息を吸う近江先生。


先生「この国の存亡に関わってくんで・・・・・・・」




その場を去る近江先生。
もう日も落ちて琵琶湖もその色を紺に染め変えていた。
いつまでも門下生はごそごそと今目の前で起こった不思議な出来事について話し合っていた。