用語解説「医師法21条」
医師法21条で、医師は「死体または妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とされており、違反すると「50万円以下の罰金」が科せられる。しかし、医師法21条をめぐっては、▽憲法31条(適正手続の保障)に違反するのではないか▽憲法38条第1項(黙秘権)に違反しないか―など、憲法違反の疑いがあることが指摘されている。
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医師法21条は、明治時代の医師法の規定を受け継いでおり、立法の趣旨は「司法警察上の便宜」とされている。例えば、何者かに刃物で刺された被害者が病院に運ばれて死亡した場合などに犯人の逃亡や事件の拡大を防止するため、警察への協力義務を定めた規定とされている。
このような立法趣旨から、「異状」の解釈については、診療行為に関連しない死亡(他殺による死体など)に限定する考えもある。しかし、警察や裁判実務は医師の診療行為に関連して死亡した場合も広く「異状死」に含めるという考えを採用している。
最高裁判所は2004年4月、都立広尾病院の担当医師らに対し、医師法21条違反の有罪判決を下した。その年の12月に福島県立大野病院で帝王切開した20歳代の女性が死亡した事件(大野病院事件)では、担当医師が業務上過失致死と医師法21条違反の疑いで逮捕、起訴された。
大野病院事件で弁護側は、医師法21条の憲法違反(31条、38条)を主張している。憲法に違反する法律は無効であるため、憲法違反の主張が認められれば、医師法21条違反の問題は生じない。同事件の公判は今年5月16日に福島地裁で結審し、8月20日に判決が言い渡される。
1.憲法31条(適正手続の保障)違反か
あいまいで不明確な法律で処罰することは国民の自由を奪うことになるため、憲法31条によって無効とされる。憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪はれ、またはその他の刑罰を科せられない」と規定しており、刑罰法規が明確であることを求めている。これは、「明確性の原則」や「漠然性故に無効の法理」といわれる。
これまでに刑罰法規の明確性が問題となった事件は多く、「交通秩序を維持すること」(徳島市公安条例事件)、「淫行」(福岡県青少年保護育成条例違反事件)などの文言をめぐって、憲法31条に違反するかどうかが争われた。しかし、最高裁はいずれも違憲の判断を下していない。
2.憲法38条第1項(黙秘権)違反か
憲法38条1項は、「何人も,自己に不利益な供述を強要されない」と規定し、黙秘権(自己負罪拒否特権)を保障している。医師法21条の「異状死」の解釈として、医療ミスによって死亡した場合も含めるとすると、このような「診療関連死」を警察に届け出ることは、自己に不利な証拠をわざわざ「自白」することになる。
このため、医師法21条は「自己に不利益な供述を拒否する権利」を基本的人権として保障した憲法38条1項に違反する恐れがあるとの批判もある。
3.「異状」と「過失」は関連するか
「異状」の有無について、死体の外表から客観的に判断すべきか、それとも「異状死」を招いた「過失」と関連付けるかが問題となっている。「過失があれば異状死」で、「過失がなければ異状死ではない」など、業務上過失致死罪の成否と医師法21条の「異状」の解釈とを関連付ける解釈方法に対して批判もある。
大野病院事件で弁護側は、「本件患者の死体には客観的に異状が認められない」と主張している。「異状」の判断が、医師らの過失の有無とは関係なく、死体の外表から客観的に判断されるならば、医師法21条に違反する可能性は低いとの指摘もある。
また、客観的に死体の外表を検査した結果として「異状」という判断が下された場合であっても、医師法21条の主観的構成要件(故意)を欠くという解釈もあり得る。院内の安全管理マニュアルに従っていたことなどを考慮して、「異状性の認識はなかった」と認められれば、医師法21条違反にはならない。
刑法学者など法律関係者は、個々の刑罰法規を「構成要件」と呼び、これを「客観面」と「主観面」に分ける。例えば、「人を殺した者」を処罰することを定めた刑法199条の構成要件の客観面には、「人を殺す行為」や「死亡した結果」などがあり、これら「構成要件の客観面」を満たさなければ、「構成要件の主観面」(故意や過失)の判断に入ることなく、犯罪は不成立になるとされる。
このように、多くの犯罪構成要件は客観面と主観面に分けられる。しかし、医師法21条は「異状があると認めたとき」と規定しており、客観面と主観面の切り分けが難しい。このため、「診断書や検案書を発行しなかったとき」と規定するなど、構成要件の客観面を明確にするように変更すべきとの意見もある。
更新:2008/08/18 15:20 キャリアブレイン
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