うつ病では抗うつ薬による治療が最も多く行われていますが、最近、精神療法の一つとして認知(行動)療法が注目されています。 この治療法は自己、周囲、将来に対する否定的な考えから生じた考え方の癖(認知のゆがみ)を変えることにより、うつを生じさせない感情状態に導き、現実的で適応的な行動をするようにします。
うつ病の人によく見られる考え方の癖の例として、「何でも徹底的にしなければ気がすまない。中途半端ならしないほうがまし」と考える完全主義的思考があります。達成困難な目標をかかげ、「私は○○すべきである」と考え、完全を目指して努力します。達成できれば、自信がついてさらなる挑戦ということになりますが、多くの場合は達成できず、自信を失い憂うつになります。
その他の主な考え方の癖として、過度の一般化(少ない事実からそれをすべてと思う)▽自己関連づけ(悪い出来事をすべて自分の責任にする)▽二分割思考(白黒をはっきりさせ、中間の灰色がない)▽選択的抽出(自分が関心のある事にのみ目を向けて、そこから結論づける)▽肯定的側面の否定(自分の大きな長所を否定し、たいしたことはないと無視する)▽過大視(自分の関心のあることは大きくとらえ、自分の考えや予測に合わないことは小さくみる)--などがあります。
もし、このような考え方の癖があれば、少し緩和するようにしましょう。そうすれば、精神的健康の保持増進やうつ病の予防にも役立ちます。
次回は「対人関係療法」について。(大阪市立大大学院医学研究科准教授・神経精神医学、井上幸紀)
毎日新聞 2007年12月8日 大阪朝刊