社説

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社説:秘密保護法制 あくまで情報公開が原則だ

 政府は、防衛や原子力など国の安全保障にかかわる秘密情報を保護するための法整備を検討する。経済産業省の「技術情報等の適正な管理の在り方に関する研究会」がまとめた報告書を受けたものだ。軍事転用可能な先端民生技術が多方面で登場していることなどから、これに対応しようというものだが、情報公開や産業振興とのバランスをどうとるかという難しい課題もある。

 安全保障に関連する報告書の提言で注目されるのは、政府情報防護の徹底の取り組みと、「秘密特許制度」導入の二つである。

 現在の秘密保護法制は、日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法、自衛隊法、原子炉等規制法などだが、罰則の対象行為は漏えいに限られている。漏えい目的でも情報の収集行為自体は対象とならず、秘密の対象も限定されている。

 最近では、海上自衛隊員がイージス艦情報を持ち出して逮捕される事件もあった。法制推進の背景には、機密情報の保護制度が十分でなければ、米国からの軍事技術や先端兵器などの受け入れ・共有に支障を来すとの判断もあるのだろう。

 しかし、国家の運命を左右し、莫大(ばくだい)な費用を要する安保政策は、国民の理解のもとに進められなくてはならない。そのためには、情報の公開が前提になる。秘密保護が行き過ぎた秘密主義・隠ぺい体質の助長に結びつくことのないよう、法整備にあたっては十分な検討が必要である。

 報告書は特に、法整備の一環として「秘密特許制度の検討」を提言した。安全保障上の先端技術について、防衛省などの判断に基づき、特許出願後に非公開とする制度である。

 現行の特許制度は全件公開主義の立場で、特許法は出願から18カ月後の公開を義務づけている。投資の重複を防ぐとともに発明を奨励し、社会の技術水準を向上させて産業の振興を図ることを目的としたものだ。

 確かに、軍事関連技術や軍事転用可能な先端技術が他国に流出したり、テロ組織の手に渡るのを防ぐ手だては必要だろう。欧米諸国などは秘密特許制度を導入する一方、出願人の特許が他の企業などに利用されることで得られるはずの利益を補償している。安全保障上の先端技術と民生技術の区別はあいまいになっており、先端民生技術には軍事転用可能なものも多い。

 しかし、だからこそ、安易に非公開制度が運用されれば、秘密対象の範囲が広がり、経済活動にマイナスに作用するおそれもある。この制度を導入する場合には、厳格な適用が求められる。

 秘密情報の保護は、国民の政府、社会に対する信頼が基礎になければならない。防衛省や防衛関連企業によって秘密の範囲が拡大するのではないか、との懸念が広がれば、法整備への支持も得られまい。

毎日新聞 2008年8月18日 東京朝刊

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