毎夏文部科学省が全国の学校教育の状況を統計値で集約する「学校基本調査」がまとまった。いわば教育の国勢調査で、在学者数、進路など基本項目のデータがぎっしり並ぶ。
毎回最も注目されるのが小中学校の「不登校」だ。概数でいうと、07年度で児童生徒全体の1・2%、12万9000人で、前年より2000人以上増えた。中学にしぼると、2・9%と過去最高率を更新した。
文科省は増加の背景を探ろうと今回初めて“思い当たる節”を10項目挙げ、教育委員会に複数回答で選ばせた。すると93%が「人間関係をうまく築けない子が増えた」、82%が「家庭の教育力の低下で基本的生活習慣が身に着いていない」を選び、65%は「欠席を安易に容認したり『嫌がるのに無理に行かせることはない』と考えるなど保護者の意識が変化」と甘やかしの風潮を挙げた。
学校外の問題に起因するところが大きいという見方だろう。確かに給食費未納や放置などの問題に象徴されるように、保護者側に責任感や養育意志が欠けるといわざるをえない例はあり、身勝手な要求を強引に通そうとする「モンスターペアレント」に困惑する教委や学校も少なくない。
しかし、そこで嘆息するだけでは事態は改まるまい。保護者だけではなく、学校内には、教師の側には問題はないのか。例えば、調査で「いじめ」が不登校のきっかけとされたのは3・5%だが、見逃しはないのか。対策の結果、不登校の子の3割が登校するようになったが、経過や手法はどのようなものだったか。類別の統計整理にとどまらず、具体的な個別検証や情報・教訓の共有へと深め、広げることが必要だ。
同じことは大学問題についてもいえる。今回の調査で大学・短大進学率は55・3%と過去最高を更新した。志願率も6割を超した。文科省・中央教育審議会は、07年には総定員に志願者総数が収まる「全入時代」になると見込んでいたが、外れ、今春も入学者は志願者の92%程度にとどまった。一方で私立大の半分近くは定員割れを起こし、分極傾向も顕在化している。
文科省は「予想以上に高学歴志向が高まった」というが、なぜなのかは判然とせず、その「高学歴志向」の内実の分析もない。入試改革も遅々としている。一方、大学院生のうち社会人が2割を超し、高度に専門的な知識・能力を向上させる役割を高等教育に求めている。これも注目し、政策的に対応すべき現象だ。
データは臨機に活用してこそ意味がある。「ゆとり」から「学力向上」と旗印を翻しながら、どこかつかみどころがない。そうした国の教育政策が分かりやすく説得力を持つためにも、現実を映すデータがたなざらしになってはならない。
毎日新聞 2008年8月18日 東京朝刊