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週刊東洋経済

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地雷原を肥沃な畑に――死も覚悟する男の夢(3) - 08/08/18 | 06:00


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 これらの作業は、雨宮一人で行ったわけではない。彼を支えたのは、地雷に苦しむ人々を救いたいという思いに共感した山梨日立建機の社員たちだった。雨宮が開発を思い立った95年に、社員6名のプロジェクトチームが結成された。普段は本業の建築機械の販売・修理の仕事をしなければならないため、開発に充てられる時間は平日の早朝や深夜、日曜、祝日しかない。それでも、メンバーたちは一言も不満を言わず、雨宮とともに熱心に取り組んだという。

 そうした努力が実を結び、現場に投入しても問題ない製品が出来上がったのは00年ごろのことだ。

 だが、製品が完成しても、当初はなかなか使ってもらえなかった。実績がないため、本当に安全に処理できるのか、信用してもらえないからだ。不安を払拭するためには、自らが操縦して証明するしかない。その過程で、雨宮は何度も危険な目に遭っている。

地雷除去後に進む生活インフラの整備

 ニカラグアでは、地雷処理の作業中に右耳の聴力を失った。地雷を発見しようと、運転席のドアを開けて操縦していたところ、突然、除去機の接触した地雷が爆発。その爆音によって、右耳の鼓膜が破れてしまったのだ。治療をせずに放置してしまったため、今はまったく聞こえない。

 アフガニスタンでは、死の恐怖を体験した。足を踏み入れたのは02年。前年には米同時多発テロが起き、米国とタリバンとの戦いが激しさを増していた時期だ。入国しようとした雨宮は、タリバンにスパイ容疑で拘束された。銃を突きつけられたときには「さすがに殺されると思った」(雨宮)という。

 それでも、雨宮の心は折れなかった。「われわれはスパイではない。あなたたちの国をよくするために来たんだ」と、必死に訴えたのである。その熱意が通じたのか、雨宮たちは無事に解放される。

 入国しても、現地の人々にはなかなか相手にしてもらえなかった。そこで、雨宮は大きな賭けに出た。地雷除去機で処理が終わった地雷原を、はだしで歩き始めたのである。「正直、(地雷にあたらないという)自信はなかった」と雨宮は苦笑いするが、これが功を奏した。地雷がないことを確認すると、彼らはこう声をかけてきた。「ミスターアメミヤ」。そこに、ようやく信頼関係が生まれたのである。

 これだけ危険な目に遭えば、怖くなってやめてしまっても不思議ではない。つねに死と隣り合わせでありながら、それでも雨宮を突き動かすのは、カンボジアの老婆の言葉だ。「助けてくださいとお願いされたら、何とかして助けようとする。それが人間じゃないですか。そのためには命を懸けますよ」(雨宮)。

 実は、雨宮は地雷除去機の開発を始めた95年に、自分が死んだときのために墓を買った。「そのときから、死の覚悟はできているんです」と豪快に笑う。
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