下界で抱える悩み、苦しみがいかに小さなものか―。八月上旬、国内最高峰の富士山(三、七七六メートル)に初登頂し、そう実感した。
富士登山は小学時代、伯父に誘われた好機を逸して以来の宿願。「いつかは日本一の山へ」との思いが、心の中でくすぶっていた。そこへ、新見ハイキングクラブが児童らの登山を初企画したと知り、同行した。
西日本最高峰の石鎚山(愛媛県、一、九八二メートル)を踏破した体験はある。しかし二十年ほど前の話で、初心者同然。ザック、登山靴などを買いそろえることからスタートした。
挑戦したのは新見、高梁市の小学六年生から七十代の十六人。四日、夜行バスで山梨県に向かい翌五日正午、五合目(二、三〇五メートル)から二日がかりで山頂を目指した。
自然は厳しい。気圧低下や酸素の薄さがもたらす頭痛などの高山病症状、果てしなく続くかに見える坂道、激しい雷雨。道中、次々と試練にさらされた。その都度、高山病予防策に深呼吸や水分補給、排尿を心掛け、途中休憩、雨具で身を守り困難を乗り越えた。
何事もそうだろう。苦労した先には、喜びがある。六日午前五時前、山頂で御来光を拝め、火口周囲約三キロを歩く「お鉢巡り」で剣が峰の三角点を制覇。青空と眼下に広がる壮大な雲海を眺め、言い知れぬ感動に浸った。
登山は、最後は自分との闘いだ。あきらめたら、それで終わる。「千里の道も一歩より始まる」。人生も高みに向かって、小さな一歩を積み重ねたい。
(新見支局・大立貴巳)