米国がポーランドに配備を計画しているミサイル防衛(MD)施設建設について、ポーランドとの間で最終的に合意した。だが、ロシアは東欧での米MD計画は「ロシアを標的にし、新たな軍拡競争を招く」と反対する。グルジア情勢をめぐって米ロの関係が悪化しているだけに、米MD計画の実行は慎重であるべきだ。
MD計画は、米国がイランのミサイル攻撃から欧州を守るためとして昨年初め、ポーランドに地上配備型の迎撃ミサイル基地、チェコにレーダー施設の建設を提案した。チェコとは今年七月、設置する協定に正式調印したが、ポーランドは、基地建設の見返りとして軍事支援を米国に要求したことから交渉が難航していた。
一気に合意したのは、ロシアのグルジア・南オセチア自治州への軍事介入が後押ししたことは間違いなかろう。ポーランドなど旧東欧諸国は、ロシアに対して旧ソ連時代からの歴史的な脅威を持ち続け、安全保障を確保しようと米国への接近を志向している。ロシアのグルジア侵攻によって危機感を強めるポーランドの懸念を払しょくするために、米国が歩み寄ったとみられよう。
今回の合意では、米国がポーランド軍の近代化を支援することを約束したという。さらには、ポーランドの第三国からの脅威に対し、米国が軍事協力することなども含まれているとされる。ポーランドへの肩入れが目立つ。
ロシアは激しく反発している。ロシア軍のノゴビツィン参謀次長はインタファクス通信に対し、ポーランドはロシアの反撃にさらされることになると警告し、核兵器での対抗もあり得るとの見解を示した。あまりにも過激な反応だ。
米ロの関係は「新冷戦」といわれるほど冷却している。関係を修復しようと今年四月、ブッシュ米大統領と退任間近のロシアのプーチン大統領がロシア南部のソチで会談し、今後の協力関係の指針である「米ロ戦略枠組み宣言」を発表し、MD計画に対するロシアの懸念解消のために対話を強化する方針で一致した。これ以上の関係悪化は何としても防ごうという両首脳の意思の表明であったといえよう。
戦略枠組み宣言は、米ロ間にMD計画など「深刻な差異」がある問題が多いことを認めながらも「戦略的競争関係から戦略的友好関係に」と協調をうたった。核大国である米ロが亀裂を招かないためには粘り強い対話しかあるまい。宣言をかみしめ、自制してもらいたい。
盆休みが明け、あすから企業活動が再開するのに伴い電力需要がピークを迎えそうだ。昨年七月の新潟県中越沖地震で全面停止した東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)は依然再開のめどが立たず、全国的な需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される。
昨年夏、首都圏は電力不足に陥った。猛暑による需要の高まりに、東電全体の13%の出力を担う柏崎刈羽原発の全面停止が重なったからだ。東電は稼働を休止していた火力、水力発電所の再稼働や、他の電力会社からの融通、さらには十七年ぶりに大口需要家の電力使用を一時的に抑えてもらう需給調整などで急場をしのいだ。
この教訓を踏まえ、東電は昨年秋以降、古くなって停止していた火力発電所五基の運転を再開した。自家発電している企業の余剰電力も積極的に購入するなど今夏への備えを進めてきた。だが、古い発電機は設備の老朽化で、いつトラブルが発生するかもしれない。気温も西日本を中心に高めに推移しており、高まる需要へ相変わらずの「綱渡り供給」が続きそうだ。
電力の供給が需要に追いつかなければ、生活や産業、交通などに大きな支障を来そう。大規模停電という最悪の事態になれば、電力に依存している現代社会はたちまち機能マヒに陥ってしまう。
深刻な事態を招かないためにも、電力消費を減らす取り組みの強化が欠かせない。東電によると、夏の最大電力を記録した時点で、需要の約三割を家庭や企業の冷房向けが占めているという。冷房を控えめにするなど節電に努めなければならない。電力危機の回避へ、省エネ家電製品に切り替えることや、太陽光、風力といった自然エネルギーの活用推進なども考えていく必要があろう。
(2008年8月17日掲載)