この法案については、昨年6月21日、東京新聞が【特報】<宇宙基本法で「非軍事化」放棄 日本の近未来図は>で、6月20日、衆議院に「宇宙基本法案」が提出されたことを伝えていた。(JCJふらっしゅ:Y記者の「ニュースの検証」)
―採決は次の国会に持ち越されそうだが、成立すれば「宇宙の利用は平和目的に限る」とした1969年の国会決議の制約を緩め、防衛の範囲内で宇宙の軍事利用が可能になる。ここにきての財界の強力な後押しには軍需産業の拡大を懸念する声も。新宇宙時代の幕が開けたとき、この国はどう変わるのか。―
とリード文で、早くもこの動きの本質を伝えている。
同紙は続いて10月9日に、【科学】<記者のつぶやき>で、<宇宙基本法ができ、安全保障や産業振興が強調されると、科学目的の宇宙にいっそうの逆風が吹く可能性がある。いずれにしても宇宙が研究開発、科学技術という以上は目指すのは「世界一」「世界初」だけでいい。>と指摘していた。
そして今年、「宇宙基本法案」は5月9日衆院を通過、これから参院で審議が始まる。
5月16日、東京新聞は社説「宇宙基本法案 『平和目的』こそ原点」をかかげ、この「宇宙基本法案」は<従来の「平和利用」から「安全保障」への大転換>をめざすものであり、<わが国の宇宙開発の性格を一変させる>ものであるとの警鐘をならし、参院で審議を尽くすべきだと厳しく提起した。
ポイントを整理しておこう。
1)衆院の内閣委員会ではわずか二時間の質疑で可決され、参院に送付された。参院で審議を尽くす必要がある。
そもそもこれまでは、
2)一九六九年の宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)発足の際、衆院本会議で宇宙開発について「平和目的に限る」との決議を全会一致で採択した。政府は「平和目的」とは「非軍事」と説明してきた。
3)「防衛目的」の衛星打ち上げは禁止されてきた。「情報収集衛星」も、地上の物体を見極める能力は民間衛星以下に抑えられてきた。
だがこの従来の制約を一挙に撤廃して、宇宙開発の目的として「安全保障」を明確に盛り込んだ法案が成立すれば、
4)自衛隊が一気に高性能の衛星を持てるようになる。ミサイル発射を探知する「早期警戒衛星」の保持が可能になる。周辺国の警戒心を呼び起こすだろう。
5)宇宙開発の透明性も失われる。政府は「情報収集衛星」に関する情報提供さえ渋ったのだから、高性能の防衛目的の衛星ならなおさらだ。法案の「情報の適切な管理」がその根拠に使われかねない。
6)もともと多額の予算を必要とする宇宙開発である。防衛分野が優先されれば平和利用が割を食う。両者のバランスをどう取るのかは全く不明だ。
7)わが国は平和利用の一環として、小惑星探査機「はやぶさ」や月周回衛星「かぐや」など優れた無人探査技術を開発し、世界から高い評価を受けてきた。こうした技術開発が先細りにならないか。
法案成立に焦る勢力の存在の背景として、
8)北朝鮮の核・ミサイルの脅威のほか、平和利用だけでは今後も大きな需要が期待できず、防衛分野の需要拡大で宇宙産業を振興させたいメーカーの思惑が働いている。
以上から、
9)このまま、長年堅持してきた「平和目的」を簡単に放棄しては、わが国の宇宙開発の将来に禍根を残すことになる。
東京新聞は16日の社説で以上のように論陣を張った。
■「改憲論議を休止してはならない」とする人たちにとっての「宇宙基本法案」とは?
この東京新聞16日付社説でおさえておきたいポイントは、
A)防衛分野の需要拡大で宇宙産業を振興させたいメーカーの思惑、だろう。そして、
B)自衛隊に高性能の防衛目的の衛星を持てるようにしたうえ、機密情報を抱え込む、
の2点にあるように思う。
平和目的に限定した宇宙開発に防衛目的を付け加えようとする資本の論理の台頭と、情報の抱え込みと隠蔽体質を危惧する指摘である。
10日付の社説「宇宙基本法 政治主導で戦略を練り直せ」で読売新聞が打ち出した姿勢が、まさにそのことをそのまま示唆するような内容だった。
同読売社説の主旨は、
(1)日本の宇宙開発は、年間約2500億円の予算を投じながら、研究・開発分野が限定され、産業化に十分つながってこなかった。
(2)情報収集衛星の能力は民間衛星と同等にとどめられ、ミサイル発射を探知する早期警戒衛星の開発も封じられてきた。
(3)日本が高い技術水準のロケットエンジンを開発しても、軍事衛星を打ち上げる可能性のある米国企業には売却できない、という問題もあった。
(4)中国、インドなども、米露や途上国と協力し、宇宙開発・利用に本腰を入れている。
(5)首相を本部長として設置される宇宙開発戦略本部で、政府が一体となって戦略を再構築すべきだ。
以上のように、読売社説は、<法案には、民主党の要求で、法施行から1年後をめどに内閣府に「宇宙局」(仮称)を設ける規定も盛りこまれた>と、民主党の対案を受け入れた政府を擁護しながら、社説のタイトルどおり「政治主導」で、「戦略を練り直」して、宇宙政策を仕切り直す体制を、しっかりと作ってもらいたいというわけである。
そして社説の主眼は、年間約2500億円の予算をもつ日本の宇宙開発は、研究・開発分野が限定され、「産業化」に十分つながってこなかったのであり、高い技術水準のロケットエンジンを開発しても米国企業には売却できなかった。だが、この法案が可決されれば、軍事衛星を打ち上げる可能性のある米国企業に対しても、日本の技術の売却が可能になるのだから、米露や途上国と協力して宇宙開発・利用に本腰を入れる中国、インドなどに対抗して、宇宙開発を日本の産業とできるように戦略を練り直して、自公政府は主導権を握るべきである、ということにおかれている。
また、この社説の民主党にふれた記述のしかたからすれば、読売社説は、この法案で民主党の取り込みに成功したのだから、自公与党は、民主党に対して優位性を取り戻し、この法案に反対または消極姿勢をとっている共産党や社民党などと、民主党の分離をはかり、一気に、自公主導の流れにもっていくべきだと、自公与党への指南役ぶりを発揮しているように、少なくとも私には読めた。
読売新聞の「改憲」キャンペーン、「改憲」応援姿勢のうらには、政府予算をバックグラウンドとした新・産業づくり推進の計算があり、その音頭とりをすることで、同紙及びグループ企業の経営を固めなければ生き残れないという空気を社内に蔓延させているのかもしれない。そう思えるほど、民意の「改憲」志向先導に挫折した同紙としては、経営の生き残りを志向する「企業戦士」むけに感覚を研ぎ澄ませた情報発信活動を繰り広げようとしているのかもしれない。
4月8日の読売記事<憲法改正「反対」43%、「賛成」を上回る…読売世論調査>、同日の社説<憲法世論調査 改正論を冷やす政治の混迷>、そして5月3日付社説<憲法記念日 論議を休止してはならない>の一連の流れは、同社としてはこれ以上、あたかも日本の世論が「改憲」を熱烈に望んでいるという状況であると世間に印象付けたり、それをテコに一気に「改憲」にむけた具体的な歩みを進めようとすることはむずかしくなったという情勢判断と、それにあわせてまるで9条改憲論議に意味があったかのように「(改憲)論議を休止してはならない」と(わざと負け惜しみのように)いいつつ、自公政府の指南役として政界に同社某会長のように「君臨」しつつ、「新産業の創生」を主導することで、自分の新聞やグループのための新たな「市場」を開発しようとしているように思えてならない動きである。
要するに民主主義社会において不可欠な、新聞ジャーナリズムの公権力監視の役割などかなぐり捨てて、法律を変えれば新たな市場ができあがると喧伝、その先導役を果たした自分のところには他社と異なる優位性を、と政府与党と役所と関係軍事企業にツバをつけ「おねだり」したり「君臨」したりしようとする姿勢に他ならないのではないか。
既述の東京新聞社説が指摘するように、長年堅持してきた「平和目的」を簡単に放棄しては、わが国の宇宙開発の将来に禍根を残すことになる。
<小惑星探査機「はやぶさ」や月周回衛星「かぐや」など優れた無人探査技術を開発し、世界から高い評価を受けてきた>日本の宇宙技術開発に自信と誇りをもって、この分野の産業としての成長を切り開いていくべきであろう。
防衛・軍事利用を含めた宇宙産業をめざしてトクをするのは、メディアでは読売新聞社説と同歩調をとる企業群だけ、政党や政治家にとっても、この路線でトクをするのは、平和利用の技術開発のための予算を食い物にして、ゆくゆくは第2、第3の守屋某前防衛事務次官のような贈収賄事件を引き起こしかねない政派に属する面々だけなのではないのか。
■「宇宙基本法 非軍事の誓いと夢を壊すな」と愛媛新聞
宇宙は人間のおもちゃではない。宇宙を戦場にしてはならない。
50年後、100年後を継いで行く世代に、「宇宙戦争」への火種となるような負の社会資産を残すわけにはいかない。
地球環境の未来を、世界が心をひとつにして守り、切り開いていこうとする機運が高まる中、米国のミサイル防衛網に対する批判が強まっている。この「宇宙基本法案」は、米国内部からも「MD投資はまったくの無駄遣い」と指摘が出始めているMD防衛網と深くかかわっている。米軍再編とも連動する動きを促進する内容を、奥深くはらんでいる。
地球も、そして宇宙でさえ、自分たちの「チーズ」だと勝手に決め込んでいる米国の軍産複合体の思惑に引きずりまわされるようなことがあってはならない。世界は、米国をその宿痾(しゅくあ)から脱皮させていくための知恵を寄せ合うときなのである。
12日付社説「宇宙基本法案 非軍事利用へ議論深めよ」で山陽新聞は、<問題は、これまでの情報収集衛星の運用実態が明らかにされていないことだ。どのように活用され、具体的に成果があがっているのか。検証作業をすることが先決だ>と指摘し、<法案が成立すれば、「非軍事」という宇宙開発の原則は一段と崩れ、歯止めがかからなくなる恐れがある。防衛省が独自に運用できるようになった場合、「非侵略の範囲」という条件が、守られるのか要警戒だ。なし崩し的に宇宙の軍事化が進むことがないよう、さらに議論を深めていく必要があろう>と、結んでいる。
愛媛新聞も同日、社説「宇宙基本法 非軍事の誓いと夢を壊すな」を掲げた。<「自衛権はどこまで行使できるのか」「軍備による抑止力とは」という議論が常にある。この終わりのない論争が国境がないはずの宇宙で起こるのは避けたい。軍拡の色合いが濃かった宇宙開発競争に、平和思想を唱え続けた日本の役割は大きかったはずだ。宇宙基本法の運用では、やはり非軍事の精神を貫きたい。人類が描き続けた夢を壊してはならない>と提言している。
西日本新聞は12日付の社説<防衛目的」の拡大恐れる 宇宙基本法>で、この法案が成立すれば、<防衛省は、ミサイル防衛の中核となる高度な監視・早期警戒衛星の導入も法解釈上、可能としている。日米が共同で取り組むミサイル防衛(MD)計画が進むなかでの政策見直しである。「防衛目的」が拡大解釈される恐れはないのか。疑念がつきまとう>と指摘、<宇宙条約は国際的には「非侵略の軍事利用は禁じていない」と解釈されているが、条約の主眼はあくまで「軍事利用制限」にあることを忘れてはならない>として、参院での十分な議論を求めている。
北海道新聞は15日付の社説<宇宙基本法 軍事に踏み込む危うさ>で、「法案をめぐる疑問や疑念は山ほどある。いま宇宙にある情報収集衛星はどんな情報を集めているのか。それはどう利用されているのか。米国との軍事協力はどうあるべきなのか。MDには今後どう対応していくのか。宇宙の平和利用という国是はもう捨て去るのか。参院では、そうした一つ一つについて丁寧な議論が欠かせない。成立を急ぐことはないのはもちろんだ」として、 「宇宙基本法の必要性は否定しない。ただしそれは、宇宙軍拡競争ではなく宇宙軍縮をリードするものであるべきだ」と結んだ。
毎日新聞は15日付社説「宇宙基本法案 軍事利用に懸念は消えない」で、05年に自民党の国防族議員が宇宙分野の企業や防衛庁幹部らと立ち上げた「日本の安全保障に関する宇宙利用を考える会」のこれまでの動きに言及して、この法案が<将来の宇宙への兵器配備に向けた「入り口」になるのではないか、との懸念が残る>とする鋭い指摘をしている。
朝日新聞は10日の社説「宇宙基本法―あまりに安易な大転換」で、「国家としての得失はどうか、自衛隊の活動にどんな歯止めをかけるのか、といった論議は抜け落ちたままだ。しかも、たった2時間の審議で可決するとは、どういうことか。あまりに安易で拙速な動きである」として、次のように問題を提起している。
もしこの法案が成立すれば、
1)自衛隊が直接衛星を持ち、衛星の能力を一気に高める道が開ける。それにとどまらず、将来のミサイル防衛に必要な早期警戒衛星を独自に持つことができたり、様々な軍事目的での宇宙空間の利用が可能になったりする。
2)内閣委員会で提案者の議員は、具体的な歯止めについて「憲法の平和主義の理念にのっとり」という法案の文言を引いて、専守防衛の枠内であるという説明を繰り返しただけだ。
3)基本法の背景には、日本の宇宙産業を活性化したいという経済界の意向もある。衰退気味の民生部門に代わり、安定的な「官需」が欲しいのだ。だが、宇宙の軍事利用は、日本という国のありようが問われる重大な問題である。
4)衛星による偵察能力の強化は抑止力の向上につながるという議論もあるだろうが、日本が新たな軍事利用に乗り出すことは周辺の国々との緊張を高めないか。
5)巨額の開発、配備コストをどうまかなうのか。宇宙開発が機密のベールに覆われないか。そうしたことを複合的に考える必要がある。
6)国民の関心が乏しい中で、最大野党の民主党が法案の共同提案者になり、真剣な論議の機会が失われているのも危うい。
私には、経済のグローバル化の荒波をうけて生き残りをはかる日本のメーカーが、米国の主導する宇宙軍拡の波にあえてみずから身を投じることが、本当に日本の科学技術の向上に資するとは思えない。平和主義を憲法に書き込んでいる国として日本の科学技術を世界に示し続け、その担うべき役割を世界にむけて果たしていこうとする道からは、明らかに外れる法案である。
国会は、日本国憲法にしばられているという萎縮した感覚をいいかげんに卒業して、日本国憲法をいかした道を世界に向けていかに歩んでいくかの議論を早急に深めていくべきである。
■法案をとりまく利益集団と巧妙な情報操作
宇宙技術関連のニュースでは、3月に米スペースシャトル「エンデバー」に搭乗して、日本初の有人宇宙施設「きぼう」建設に携わった宇宙飛行士、土井隆雄さんの活躍が記憶に新しい。また建設中の国際宇宙ステーションが予定通り2010年に完成しても、スペースシャトルが引退する2010年以降、水や食料など必要な補給物資の半分しか地上から輸送できない恐れがあることが、米政府監査院(GAO)の調査で分かったとの報道も出ている(共同通信→東京新聞)。
四川大地震にみまわれた中国政府が、被災地域を撮影した衛星画像の提供を米政府に要請したが、独自の衛星画像をもとに被災状況の解析を進めているとされる米情報機関は、機密保持への配慮から、商業衛星が撮影した画像を提供する見通しという話題(ロイター通信→産経新聞)。
またロッキード・マーチン(米防衛大手)がライバルの米ボーイングを破って、米空軍から14億6000万ドル相当の次世代航法衛星を受注、総額は最大で35億7000万ドルになる可能性があるとの米国防総省の発表もある。
あるいは、米マイクロソフトが12日、ハッブル宇宙望遠鏡などからの画像を含む宇宙空間をユーザーが自分のパソコン上で見ることができるというソフト、「ワールドワイド・テレスコープ」というソフトの無料配布をスタートしたというニュースもある(試験版は専用ウェブサイト(www.worldwidetelescope.org)からダウンロードできる)。
こうした動きをうけてなのか(産経新聞はマイクロソフトの「MSN」でニュース提供)、それとも担当者の宇宙空間と宇宙技術への「思い」からなのか、あるいは読売新聞などへのけん制の意味でも含んでいるのか、それとも単に法案を通りやすくするための姑息な仕掛けなのか、産経新聞は10日付社説(主張)「宇宙基本法 国の守りと科学の両立を」で、法案が成立すると、「自衛隊が衛星を保有できるようになり、高解像度の偵察衛星の運用、弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星の配備なども可能になる」と喜んでみせる一方で、法案通りに成立すると首相を長として設置される「宇宙開発戦略本部」について、注文をつけている。
以下、産経新聞主張について私なりの要約をしておく。読売新聞社説とともに、産経新聞の社説(主張)についても、じかに目を通しておきたいところ。
1)日本の宇宙科学は、世界をリードする位置にある。予算配分が防衛分野に偏り過ぎて、宇宙科学や宇宙ビジネスの分野が先細りになるようなことがあってはならない。日本の宇宙開発をバランスよく発展させていくべき。これを損なうような事態を招けば、あぶはち取らずになる。研究者の配置も10年、20年先を展望してビジョンを描くことが必要だ。
2)現在運用中の情報収集衛星については、その成果がまったく国民に伝わっていない。防衛分野での透明性を可能な限り確保することだ。巨費を伴う宇宙開発で、極端な秘密主義は、技術研究の発展を停滞させかねない。
3)機密なしの防衛はあり得ないが、その一方、透明性なしには科学技術の発展も望めない。この二大命題の両立に、関係者は議論を重ね、知恵を絞ってもらいたい。
読売と産経の奇妙なトーンの違い。その隙間から、自公政権と軍事会社の思惑がこぼれ出してみえているような気がしてならない。
また、基本法案の背景に日本の宇宙産業を活性化したい、<衰退気味の民生部門に代わり、安定的な「官需」が欲しい>(朝日新聞)という経済界の意向があるのだとしても、16日付の日本経済新聞社説「宇宙基本法、具体化への課題」が指摘するように、いまの<日本の財政状況を考えれば、基本法が成立しても宇宙関連予算がすぐに急増するわけでもない>という見方もある。
読売新聞は、せっかく民主党をここまで巻き込んだのだから、政治主導(政府与党主導の意味だろう)で一気に踏み込むべきと政府与党をあおる立場。産経新聞は予算配分が防衛分野に偏り過ぎないように宇宙科学や宇宙ビジネスの分野とバランスをとり、かつ機密なしの防衛はあり得ないものの極端な秘密主義ではなく透明性を可能な限り確保したほうがいいという立場だった。読売社説はイケイケ路線、産経新聞は一部懸念をあえてみとめてGO!、という立場といえる。
読売も産経も、どちらも基本路線は「GO!」ということでは変わりはないが、読売は依然「前のめり」の姿勢を続け、産経は少なくともこの件では法案成立を最優先していつもより若干ソフトに記事を仕上げて出したということだろう。 読売は、安倍政権当時にさらに顕著にしたブッシュの戦争追従・復古改憲「前のめり」の姿勢を続けねばなければならない何らかの事情なり思惑なりを、依然かかえているものと思われる。
一方、日本経済新聞社説は、偵察衛星など防衛目的の宇宙利用に道を開く宇宙基本法案が、今国会で成立の見通しと伝え、「国際情勢を考えれば、安全保障に絡む宇宙利用を進めやすくするのはうなずける」としつつも、「基本法の具体化には熟慮が必要な課題も残る」としており、両紙とは一味ちがったスタンスで論じている。
日経社説は、まず法案の骨格を次の(1)から(3)ように確認したうえで、課題を整理している。
(1)69年の国会決議が「非軍事」だったのに対し、こんどの基本法は「憲法の平和主義の理念」と微妙に違う、とまず法案の内容を整理、(2)趣旨は防衛省の衛星保有・利用の足かせを取り除くことにあるとし、その背景には(3)北朝鮮の核開発やミサイル発射など、安全保障上の懸念材料があり、国会なりの軌道修正と言ってよい、とする。
まず防衛目的の宇宙利用に広げることについて、(4)安全保障上の宇宙利用の自由度を高めるにしても、その範囲はあいまいなままだ、として「範囲」を問題点としてとりあげ、「国際的には衛星破壊の試みもあり、それも認めるかは定かではない。宇宙軍拡への歯止めは何らかの形で必要だろう」と「歯止め」が存在していないことを指摘、また同盟国とのしがらみや性能面から「衛星」の海外調達を考えたりしかねないとして、法案が掲げる「国内の技術力、産業の強化」の趣旨を貫く意志の強さ、つまり米国の圧力に屈せず「国産」にこだわれるのかとクギをさした。
また各紙が指摘する「情報公開」「情報提供」と「機密」「秘密」については、(5)宇宙開発計画はこれまで議論が公開され、決定過程の透明性が保たれてきた、と前置きして、「だが、防衛目的では計画の決定経過や評価が明らかにされなくなる可能性がある」と問題を提起する。
ここは東京新聞社説の<政府は「情報収集衛星」に関する情報提供さえ渋った>という指摘とぶつかるが、「防衛目的の衛星ならなおさら」という東京新聞の指摘と、日本経済新聞の「防衛目的では計画の決定経過や評価が明らかにされなくなる可能性がある」という指摘には共通するものがある。
「秘密」についてさらに、防衛目的が聖域となって民生分野とかみ合わぬ開発戦略ができたり、民生分野も秘密が増えたりする懸念が残ることを付け加えている。
また基本法が成立した場合の宇宙関連予算のつかいかたについて、「技術力をつけ、産業を強化するには、人材も資金も分散を避け、無駄を排する必要がある」と選択と集中を強調する。惰性で計画を続け、開発費が膨らんだ「中型GXロケット」のような事例を生み出す「文化も改めねばならない」と、これまでの国の仕組みと体質を批判している。
このように日経社説は、法案の趣旨に反対を唱えるものとはいえないが、法案をめぐる国会討議の質・内容を問い、また法案が成立した場合の具体化のありようについて踏み込んだ問いかけをしている点で、読売、産経の基本路線は「GO!」の論旨の組み立て方とは一線を画している。
読売、産経両紙社説はむやみやたらと食い散らかす「ダボハゼ」路線を自重し、自公政府の指南役やちょうちんもちの姿勢も見直し、社内でくすぶる多様な知識や議論をこの水準の社説にまとめ上げるなどしてそれぞれ開陳してくれたなら、日本の経済社会における情報環境は飛躍的に充実するのではないかとも思う。 この法案についても、宇宙の利用の分野に資本の論理や戦争の論理を持ち込ませず、平和目的に限ってきたことの意味・重みを忘れるべきではない。
衆院ではわずか2時間の委員会審議だったという。そうしたお手軽、無責任な政治をメディアが許してしまったり、あおったり、先導したりしていないか。市民とジャーナリストが協働して厳しく監視していく必要がある。
【社説】宇宙基本法案 『平和目的』こそ原点(東京新聞)5月16日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2008051602011691.html
宇宙基本法 政治主導で戦略を練り直せ(読売新聞5月10日付社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080510-OYT1T00176.htm
社説ウオッチング:憲法記念日 「9条改正」主張なし (毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/opinion/watching/news/20080511ddm004070170000c.html
宇宙基本法案 非軍事利用へ議論深めよ(山陽新聞12日付社説)
http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2008/05/12/2008051209132363008.html
宇宙基本法 非軍事の誓いと夢を壊すな(愛媛新聞12日付社説)
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017200805125168.html
「防衛目的」の拡大恐れる 宇宙基本法(西日本新聞12日付社説)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/21807?c=181
宇宙基本法 軍事に踏み込む危うさ(北海道新聞15日付社説)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/93055.html?_nva=23
宇宙基本法案 軍事利用に懸念は消えない(毎日新聞15日付社説)
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20080515ddm005070004000c.html
宇宙基本法―あまりに安易な大転換(朝日新聞10日付社説)
http://www.asahi.com/paper/editorial20080510.html
宇宙基本法 「非軍事」の精神を忘れるな(琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-131910-storytopic-11.html
2010年完成 宇宙ステーション 輸送手段なく物資不足も(共同通信→東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008051002010195.html
中国、被災地の衛星画像提供を米に要請(ロイター通信→産経新聞)5.16 10:45
http://sankei.jp.msn.com/world/america/080516/amr0805161045005-n1.htm
ロッキード、米空軍向け次世代航法衛星を受注(日本経済新聞)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCEA9492.html
【主張】宇宙基本法 国の守りと科学の両立を(産経新聞10日付社説)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080510/plc0805100326006-n1.htm
宇宙基本法、具体化への課題(日本経済新聞社説16日付社説)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20080515AS1K1500315052008.html
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JCJふらっしゅ
Y記者の「ニュースの検証」=小鷲順造
http://archive.mag2.com/0000102032/index.html
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想像しよう。日本国憲法を遵守する日本を。少しだけよくなった世界を。宇宙にまで戦争の論理をもちこまない世界を。君が代を強制されない日本を。いま必要な政治を託せる政治家が国会を埋め尽くしている姿を。自衛隊を海外戦地に派遣しない日本を。「後期高齢者医療制度」が廃止された日本を。想像できればそれは必ず実現できる。みんなが想像しているのだから、実現できない理由をみつけるほうが困難なのは当然のことではないか。