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欧州連合(EU)の宇宙軍拡進展に焦る日本の防衛産業



 今年5月の通常国会で日本の宇宙軍事利用を合法化する宇宙基本法が成立した。「1969年の宇宙平和利用に関する国会議決を反故にする」と一部の学者や市民団体は声を上げたが、自民、民主両党の事前合意があったため、衆議院内閣委員会での審議入りから約半月という前代未聞のスピードで参議院本会議において可決された。8月中にも施行の見通しだ。この背景には弾道ミサイル防衛や軍事衛星の開発を促す米国の要請と並び、主要加盟国間の協力で目覚しく進展している欧州連合(EU)の宇宙軍拡による市場競争に立ち遅れたくないとの日本の防衛産業関係者の強い焦りがある。



▼EUの軍事衛星は米国を凌駕へ


 憲法上の制約のない同じ敗戦国のドイツは2006年12月に最先端の合成開口レーダー探査衛星SAR-Lupe1を初めて打ち上げ、今年7月下旬にはロシア北東部のロケット基地からLupe5を高度500キロの太陽同期軌道へ乗せた。ドイツ当局によると、これで今年9月からは計5個の探査衛星群による対地軍事探査活動がフル稼働することとなる。


 一方、フランスは1993年以来、南米の仏領ギアナの宇宙基地から光学探査衛星Heliosの打ち上げを続けている。レーダー探査衛星は気象状態や昼夜に左右されずに、地上の探査対象物の画像解析が可能な点で光学衛星より優位にあるが、光学探査衛星は画像解析の精密な点でレーダー衛星を凌ぐ。ドイツが開発した最先端のレーダー探査衛星とフランスの光学衛星から得られたデーターは仏独両政府の協定により相互交換されて、解析されることとなった。しかも、フランスがドイツなどEU主要国からの技術供与で開発した現在のHeliosは米偵察衛星の解析能力(10センチ程度までの探査対象物を確認可能)に比肩するといわれる。


 20年近い実績のある仏偵察衛星はEU9カ国出資の仏アリアンスペース社の各種科学衛星打ち上げの一環として行われてきた。現在稼働中のフランスの光学衛星Helios2Aの数は明らかにされていないが、少なくとも10個の衛星群が軌道を周回しているとみられている。これに「世界最先端の機能を有する」と自負する独OHBシステム社のレーダー探査衛星が加わったことで、EUの宇宙軍拡は著しく進展した。なぜなら光学衛星群とレーダー衛星群とが相互に補完しあってはじめて偵察衛星システムは完成されるからだ。こと軍事偵察衛星に関しては「EUは米国を凌駕しつつある」との声まで出ている。



▼資金と制約に苦しむ日本


 日本の情報収集衛星(偵察衛星)打ち上げは2003年3月に始まった。日本政府が国産偵察衛星の開発に踏み切ったのは、1998年8月に北朝鮮が弾道ミサイルのテポドンを日本近海の太平洋方面に向けて発射した事件を契機としている。米国からの通報が遅く、米国の軍事偵察衛星の撮影画像への依存には限界があるというのがその理由だった。日本はこれまで光学衛星とレーダー衛星をそれぞれ2機、計4機を地上約500キロの軌道で周回させている。


 日本政府にとって軍事利用への制約以上に頭を痛めてきたのが巨額な開発費用である。この4機の開発費だけで約2,500億円を要したという。しかし、防衛省は「4機から(EU並みの)16機以上の偵察衛星が必要」と主張しており、1兆円を超える開発・運用のための予算を見積もっている。


 日本の軍需関連各社にとって1兆円を超える政府発注は垂涎の的である。加えて、宇宙基本法の施行でさらに研究開発の委託を含め受注額は倍増する見通しである。というのは、これまでは軍用禁止の制約から日本の情報収集衛星は「写真を撮影する」ことにのみ限定されており、米国やEUのレーザー探査衛星に備わっている赤外線探知機能がなく、解像能力も米欧に比べると劣る。日本企業が打ち上げ実績ではドイツのレーダー探査衛星に先んじたものの、機能的にはEU製に大きく立ち遅れているという。


 特に、赤外線探知機能を備えた軍事衛星の開発と実用化はミサイル発射時に放出される赤外線を探知するうえで必須とされる。また、米国やEUはすでに軍事衛星を戦略的なものから戦術的なものへと転換し始めている。つまり、軍事衛星を情報探知用から発射前のミサイルを含む、地上の軍事施設や発射されたロケットを破壊できる攻撃兵器として利用する方向へと開発が進んでいる。「平和利用という制約を一日も早く撤廃せねば日本の宇宙産業に明日はない」と日本の軍需産業関係者が焦ったのはこのためだ。



▼共同開発できるEUの強み


 既存の国民国家の壁を越えて統合への道を歩んでいる欧州連合(EU)の強みは、宇宙開発における加盟国の相互協力においても遺憾なく発揮されてきた。1980年に設立され、世界で初めて商業用衛星の発射サービスを始めた仏アリアンスペース社には上述のようにドイツ、イタリア、スペイン、オランダをはじめ欧州の主要9カ国が出資している。今年9月に始まる仏光学衛星と独レーダー衛星から送られる探査画像の解析には両国のほか、スペイン、ベルギーなどアリアンスペース出資国の多くが関与する。探査画像の解析は衛星の機能だけでなく、地上担当部隊の能力に大きく依存するため、情報の共有は大きなメリットをもたらす。


 さらに、決定的なメリットは開発・運用費用を受益国で分担できることである。日本の軍事専門家らによると、衛星技術でトップランナーであり続けた米国は「テロとの戦い」をはじめとする軍事費の異常な膨張による財政赤字拡大で、軍事衛星の開発にも支障をきたし始めている。米偵察衛星は地上の探査対象物の解明のため約500キロの通常の軌道高度から150キロ程度まで頻繁に下降させており、燃料過剰消費のため通常5年の寿命が2年程度に縮む。このため最近米国は耐用年数を超えた偵察衛星KHシリーズをぎりぎりまで使用しているのが現状という。


 そこで米国は「グローバルパートナーシップ」を宣言し合った日本による軍事衛星や宇宙兵器の開発に期待しているわけである。だが、日米の同盟関係は航空宇宙開発に関しては、内実に乏しく、EU加盟国間のような費用分担、相互協力は不可能である。米国は製造業の最後の砦である航空宇宙産業に関連する技術の日本への漏洩を極端に警戒してきた。それは昨年、米政府が日本政府の輸出禁止解除要請を一蹴した最新ステルス戦闘機F-22の機密保持貫徹の姿勢に端的に象徴されている。


 2003年のイラク戦争開戦をめぐってブッシュ政権と激しく対立した仏独両国はその後の政権交代で親米姿勢へと転じた。このため、仏独の偵察衛星群が米国の宇宙軍事システムを補完することは確実である。また近年、米、欧の軍需企業は提携を強化している。しかし、長期的には米、EUは宇宙支配権をめぐって対立的な関係へ進むと予想する向きが多い。日本の産業界は米国から財政面はいうまでもなく、技術面での支援も得ることなく、膨大な費用を投じて、単独で宇宙兵器の開発・製造を行わねばならない。しかも、その成果を米側は虎視眈々と狙っている。


 


【編集部ピックアップ関連情報】


○日本ジャーナリスト会議 2008/05/17
 「宇宙基本法案」に盛り込まれた黒く深い闇
 私には、経済のグローバル化の荒波をうけて生き残りをはかる日本の
 メーカーが、米国の主導する宇宙軍拡の波にあえてみずから身を投じることが、
 本当に日本の科学技術の向上に資するとは思えない。平和主義を憲法に
 書き込んでいる国として日本の科学技術を世界に示し続け、その担うべき役割を
 世界にむけて果たしていこうとする道からは、明らかに外れる法案である。
http://jcj-daily.seesaa.net/article/97015517.html


 


 


 


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