5日、東京で開かれた川辺川ダムに関する「有識者会議」は、ダムを建設した場合の治水効果や費用対効果を検証することを決め、今月下旬の報告書作成に向けて蒲島郁夫知事への意見取りまとめに入る。ただ、委員間には、ダム建設を容認する意見と消極論が交錯、明確な意思表示をしていない委員もいる。残された会合は2回だが、着地点はまだ見えてこない。 (熊本総局・野村創)
川辺川ダムをめぐっては、国土交通省が昨年策定した球磨川水系の河川整備基本方針で、80年に一度の豪雨を想定し、洪水対策としてダムの必要性を事実上認めた。
これに関し、鈴木雅一・東京大大学院教授(森林水文学)は「他の河川では基本方針で100年に一度の豪雨を想定しても、(基本方針を基に治水対策を定める)河川整備基本計画は30年に一度など低い水準で対策を決めている」と紹介。川辺川でもダムを造らず、既存の対策で安全性の向上を図る可能性を示した。
この日、欠席した鷲谷いづみ・東京大大学院教授(保全生態学)も環境面などからダム建設に懸念を表明している。
これに対し、池田駿介・東京工業大大学院教授(河川工学)は「流域は洪水の危険性が高い」としてダムの必要性を強調。増水時だけ貯水する「穴あきダム」を推す声もある。これまでの会合で、委員は「何らかの治水対策が必要」との意見ではほぼ一致したが、具体的な治水策の議論はこれから。ダムの是非にまで踏み込んだ報告ができるかは不透明だ。
5日の会合では136億円‐290億円とするダム着工後の県負担額の見通しも示された。ただ、国土交通省は県に「不確定要素が多く、詳細な試算は困難」と説明しており、費用対効果の検証も簡単ではない。
座長の金本良嗣・東京大学公共政策大学院長(公共経済学)は会合終了後「なかなか難しい作業が残っているという印象だ」と感想を述べた。
=2008/08/06付 西日本新聞朝刊=