◎ふるさと納税制度 教育にも取り入れる工夫を
石川県が五月から募集を開始した「ふるさと納税」制度で、この十二日までの申し込み
が十七件、計六十四万円となり、「制度の浸透が不十分」として認知度の向上に努めることになった。全国的にも予想外に伸び悩んでおり、石川県だけが低いわけではないようである。
財政難の折から、よいことを思いついたと小躍りして、どこもかしこも競って大急ぎで
タネをまいたが、早く収穫しようとしてもうまくいかないということではないのか。帰省シーズンのお盆にピントを合せて広報誌やインターネットのサイトなどで周知を図る企画を展開したが、将来の納税者を育成するため、そうした努力と並行して学校教育にも取り入れる工夫をしたらどうだろうか。
最近、アメリカの高校生が読んでいる教科書のエキスを日本向きにまるごと書き直した
本が出された。それによると、たとえば「72のプリンシプル」という実用的で頭に入りやすい例がある。金融機関に預けた元本(元金)を金利によって倍にするには、どれだけの年数がかかるかを簡単にはじき出す公式だ。
72という数字を年利(複利)で割り算すれば、その答えが出てくる。著者の一人、早
大大学院アジア太平洋研究科教授の山岡道男さんによると、なぜ、公式が成り立つのかなどという難しい話は抜きで、公式だけ覚えさせるのである。こうした平易な教え方で、家計の経済学、企業の経済学、金融の経済学、政府の経済学、貿易の経済学の急所だけをたたき込むのである。
日本でも最近は、金融機関などが学校で出前講座を開くようになった。何を、どう教え
ているのかは知らないが、ふるさと納税制度の仕組みや精神を学校でも教えたい。親がやりくりしている家計と政府や自治体の公的経済との関係を面白く説きながら、経済や経済政策の基礎的な教養を身につけさせる。政府や自治体の政策は財源に限りがあるため、あれかこれかの選択、比較検討が行われる。それと関連させてふるさと納税制度をがっちり教えるのだ。気長な取り組みだが、やがてそれは大きな木に育つのである。
◎鮮魚の直接取引 漁業の流通改革促したい
大手スーパーのイオンが島根県を皮切りに全国各地の漁協と市場を通さずに鮮魚を仕入
れる「直接取引」を始めることになった。小売大手が漁協から鮮魚を丸ごと買い取る取引は全国でも初めてだが、流通の中間コストを削減できるため漁業者の取り分が増え、このような直接取引が広がっていけば燃料高で苦境に立つ漁業経営の安定化が期待できる。従来の商慣行を見直し、漁業の流通改革を促すきっかけにしたい。
原油高による燃料高騰は漁業経営を直撃し、政府は省エネ操業を条件にした値上がり分
の直接補填(ほてん)などの支援策を決めた。だが、補填策は急場しのぎに過ぎず、これからは漁業の高コスト体質の改善とともに流通システムの合理化、多様化に取り組む必要がある。
魚は競りで価格が決まるため、燃料費上昇分の価格転嫁が難しい。仲買人らが介在する
流通システムが定着し、小売価格に占める生産者の受け取り額は農家が平均44%に対し、漁業者は24%に過ぎない。燃料高騰は漁業が抱える構造的な課題もあぶり出している。
イオンは直接取引の第一弾として島根県の漁業協同組合JFしまねと契約し、水揚げさ
れた全量を買い取り、関西圏の約六十店で販売する。漁業者側は手取り分が増え、イオン側も仕入れ値を最大10%削減できるという。店頭に並ぶまでの時間短縮で鮮度向上が期待でき、消費者にも利点がある。イオンは他の漁協とも連携して直接取引を拡大させる計画である。
これまで直接取引が普及しない理由は小売り側にもあった。鮮魚は青果物と違い、出漁
しければ水揚げ高は分からず、同じ規格や品質がそろいにくい。スーパーにとっては売れる魚だけを店頭に置きたいのが本音であり、直接取引には不安定要因も大きい。その点ではイオンの試みは、小売り側も一定のリスクを受け入れ、売り方に知恵を絞る意識を促すきっかけになるかもしれない。
漁業者も水揚げして後はお任せという姿勢では活路は開けないだろう。農業と同じく流
通や販売にも積極的にかかわる経営感覚が求められていることを認識したい。