本日ここに、天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、戦没者の御遺族並びに各界代表多数の御列席を得て、全国戦没者追悼式を挙行するに当たり、政府を代表し式辞を申し述べます。
先の大戦では、三百万余の方々が、戦場で、あるいは銃後の地において、そして戦後、遠い異境の地において、祖国の弥栄(いやさか)を念じ、愛する家族のことを案じつつ、亡くなっていかれました。また、我が国は、多くの国々、とりわけアジアの諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えました。私は、国民を代表して、ここに深い反省とともに、犠牲となられたすべての方々に対し、謹んで哀悼の意を表します。
戦後、我が国は、一貫して平和国家としての途を歩み、国民ひとりひとりのたゆまぬ努力により、平和と繁栄を享受してまいりました。私たちは、今日の平和と繁栄が、戦争によってかけがえのない命を落とされた方々の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、ひとときも忘れることはありません。私たちが、これからも、過去と謙虚に向き合い、悲惨な戦争の教訓を風化させることなく、過ぎし日の史実を未来に正しく引き継いでいくことこそ、多くの戦没者の思いに応える道であります。
今日、一部国際社会の情勢が不安定さをみせる中、一国だけの利益を追求しようとする風潮がないとは言えません。その中にあって、私たちは、内向きな志向の虜(とりこ)になることなく、心を開き、そのまなざしをしっかりと世界に向けながら、歩んでいきたいと思います。
終戦から63年を経た本日、私たちは、いま一度不戦の誓いを新たにし、平和協力国家として、国際社会の先頭に立ち、世界の恒久平和の確立に向けて、積極的に活動していくことを誓います。
戦没者の御霊の安らかならんことを、そして御遺族の皆様の御健勝をお祈りして、式辞といたします。
毎日新聞 2008年8月15日 東京夕刊