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「9秒68」
6月29日にあった全米陸上男子100メートル決勝。追い風4.1メートルで非公認だったが、世界王者のタイソン・ゲイが、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の世界記録9秒72を上回る史上最速のタイムで駆け抜けた。
「ドーピングと無関係と言い切れるか」。報道陣からは容赦ない質問が飛んだ。
02年に9秒78を出したモンゴメリ、06年に9秒77をマークしたガトリン。米国の歴代100メートル世界記録保持者は次々とドーピング違反で記録を抹消され、メダルを剥奪(はくだつ)された。女子短距離のスターだったジョーンズはドーピングに関する偽証罪などで1月に実刑判決を受けた。
世界選手権大阪大会で三つの金メダルを獲得したゲイからは、薬物使用の事実は出ていない。米国陸連のロー会長も「速く走っただけで疑うのはやめないか」と訴える。だが、米陸上界は周囲が納得するドーピング対策を示せないできた。
北京五輪に送り込まれる126代表には女子100メートルのトーリ・エドワーズら、過去に陽性反応が出た選手が数人含まれている。一方で女子400メートルのディーディー・トロッターのように「検査して。私は潔白」という白いリストバンドを巻いて五輪出場を決めた選手もいた。
米競泳界にも疑いの視線はある。
41歳で5度目の五輪出場を決めた女子自由形のダラ・トーレスは、自ら米国反ドーピング機関に出向いて検査を受けたことを明かした。「ドーピングしているとうわさされている。潔白を証明しようと思った」
シドニーとアテネ五輪で男子50メートル自由形を制したゲーリー・ホールは「世界新が次々生まれているのは水着のせいだけじゃない。証拠は示せないが、ドーピングが蔓延(まんえん)している」と訴えた。その言葉通り、女子平泳ぎの五輪メダル候補、ジェシカ・ハーディーのドーピング違反が23日明らかになった。
疑惑を払拭(ふっしょく)できないまま、スポーツ大国は北京に臨む。(原田亜紀夫、由利英明)