社説(2008年8月16日朝刊)
[救急ヘリ導入]
問題点の整理が必要だ
一見するといいアイデアのように思えるが、よくよく考えてみるとおかしい。
資金難から一時運休している北部地区のドクターヘリの再開について、舛添要一厚生労働相は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古沿岸域移設の進捗状況に応じて国から関係自治体に支出される再編交付金を活用するべきだとの考えを示した。
ドクターヘリの指定に必要な救命救急センターが整備されるまでの間、との条件が付いてはいるが、地元には再編交付金を使うのに根強い反対がある。
交付金の使い道は最終的には自治体と住民が決定するのが筋であり、国が自治体に指図するのは本末転倒だ。
厚労相の発言に対し、地元から疑問の声が上がっているのは、命を逆手に取るような形で米軍基地建設を受け入れさせようとしているとみているからだ。
命に勝るものはない。反論する者は誰もいないだろう。ただ、それを人質にして米軍基地建設の受け入れを促すのは厚労省の役割を逸脱するものではないか。
名護市は再編交付金を充てるか庁内で検討している。あくまで選択肢の一つではあるが、活用に当たっては慎重さを求めたい。辺野古移設をめぐっては依然反対が大きいからだ。
ドクターヘリを運休しているNPO法人「MESHサポート」設立準備委員会は、近くNPO法人認可申請を県に提出するという。関係者は順調にいけば、年内にも認可されると期待している。
一方で、舛添厚労相は来年度、沖縄県に二機目のドクターヘリを導入する考えを初めて明らかにした。
現時点では拠点がどこになるのか決まっておらず、年間約八千万円の負担をしなければならない県は、財政難を理由に二機目の導入にはむしろ消極的だ。北部十二市町村にしても足並みがそろっているわけではない。
中・南部の都市部に近い自治体と、離島や北端の自治体では切迫感に違いがある。北部地区の中でも微妙に格差が生じている。
先日の本紙オピニオンで、那覇市の薬剤師は「(北部地域のダムのおかげで)上水道の恩恵にあずかっている県民がその料金に多少上乗せして、広義のふるさと納税を考えてみてはいかがか」と提言している。
ふるさと納税、寄付と組み合わせる方法もあり、一考に値するのではないか。
命は本来、住む場所で差別があってはならない。
とはいうものの、現実をみると、過疎化の進む離島や僻地から医療施設が充実した病院は遠い。
沖縄は離島が多く他府県と違う特殊性がある。それだけに、医療格差を是正するのは厚労省の役割といえよう。
ドクターヘリについてはその必要性を含め、二機目の拠点となる場所、さらにMESHの資金調達の在り方などクリアすべき課題が山積している。
県は問題点を早急に整理する必要がある。
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