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【第34回】 2008年06月11日

1箱1000円たばこは一気に実現すべきだ

 中川氏ご本人はヘビースモーカーで大納税者らしいが、「無駄な歳出と埋蔵金があるから、今すぐたばこ増税なんて必要なし」と次の自民党総裁候補に名乗りをあげる人らしく胸を張っていて欲しかった。

 中川氏の話は、多少の愛嬌があって怒るほどのことでもないが、物事の考え方として問題だと思うのは、いきなり1000円に上げることによる急激なたばこ離れによる税収の減少と当面の喫煙者からの反発を考慮して、自民党内で500円あたりを「落としどころ」にしてはどうだという意見が出ているらしいことだ。

 産経新聞の記事は、値上げ幅と税収増の関係や消費動向がどうなるかがテーマとなりそうだと結んでいるが、もともと禁煙を推進する意味でたばこ税の大幅増税が容認されるのであって、徐々に値上げして、禁煙させないようにしつつ税収を確保するというのは邪道だ。

JT株の半数を保有する
政府の説明責任が問われる

 私はもしもたばこ増税を目指すならば、いきなり1000円を目指すべきだと思う。喫煙が害であるとするならば、税収増を目的に、徐々に上げていくというのでは、国民が禁煙のきっかけを持ちにくい。たばこを1箱1000円に上げた上で、禁煙のメリットを訴え、禁煙する方法を広める広報活動を一生懸命行うのが筋だし、敢えて言えば、たばこ税増税による歳入増で第一に行うべき支出はこれだ。

 税収が増えるのは、それはそれとしていいが、たばこの場合は、税収を増やすことが目的ではない。上げるならば、潔く上げて、並行して禁煙キャンペーンを行うことを考えるべきだ。
 
 但し、その際、政府はもうひとつ別の説明責任を負っている。政府が半数を保有しているJT株のことだ。JTは独占企業だから、たばこの消費量がかなり減ってもある程度の利潤は確保できるだろうが、影響が出るのは間違いない。

 JTの株式売却益をあてにして、政府がたばこの値上げを後回しにするのも不純だし、とはいえ、ここで大幅に増税して禁煙を奨励するならば、既存の株主は納得しにくいかも知れない。しかし、説明を逃げてはいけない。たばこに対する政府の考え方の変化と、新しい考え方の正当性を堂々と説明すべきだろうし、万に一つも、政府保有株をたばこ増税の前に売ってしまおうなどと考えてはいけない。

 たばこに関する限り、大幅増税は構わないと思うが、増税にあたっては、堂々と一貫したロジックが必要だ。何となく煙に巻いて、税収だけ頂こう、などと考えてはいけない。

関連キーワード:財政・税金問題 政治 健康

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執筆者プロフィル

写真:山崎 元

山崎 元
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、明治生命、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、一橋大学大学院非常勤講師、マイベンチマーク代表取締役。

この連載について

旬のニュースをマクロからミクロまで、マルチな視点で山崎元氏が解説。経済・金融は言うに及ばず、世相・社会問題・事件まで、話題のネタを取り上げます。