中国の新疆ウイグル自治区で治安部隊とウイグル族独立派の血で血を洗う応酬が続いている。北京五輪への妨害を封じ込めるとして中国が強めた少数民族に対する武断統治の限界があらわになった。
今月四日以降、同自治区では、三波の治安機関や公共施設などを狙った襲撃事件が起き、警察と襲撃側など双方で三十人以上の死者が出た。公安当局は五輪妨害を狙うウイグル族独立派の襲撃と断定した。
カシュガルの事件(四日)では警察官十六人が殺害された。クチャ公安局などへの襲撃(十日)には十五歳の少女も加わり市民一人も巻き添えになるなど悲惨だ。
一連の事件に対し同自治区トップの王楽泉・共産党委員会書記は十三日、地元幹部を前に「生きるか死ぬかの闘争だ」と宣言し「先んずれば敵を制す」の方針で徹底的に取り締まるよう指示した。
ドイツに本部を置く抵抗組織「世界ウイグル会議」によると、新疆では事件後、九十人を超えるウイグル族が拘束されたという。
いかなる理由があろうとテロは許せない。しかし、武力のみによる封じ込めは困難で、テロの温床になる貧困や抑圧こそ問題だ。
共産党は建国(一九四九年)直後、少数民族に「慎重で穏やかな」方針で臨むことを決めた。民族自治を強調し、圧倒的多数の漢民族を優先する「大漢民族主義」を繰り返し戒めた。
少数民族対策に腐心してきた歴代王朝の知恵も反映していた。文化大革命で極端な抑圧を行った時期もあったが改革・開放以降、少数民族の幹部登用や生活向上に力を入れ穏健な政策が復活した。
しかし、一九九〇年代から、ソ連解体の影響で少数民族の分離独立の動きが強まると強硬姿勢が台頭する。二〇〇一年の米「9・11テロ」以降、米国が新疆のイスラム独立運動団体をテロリスト組織に指定してからは、遠慮のない過酷な弾圧が始まった。
それは世界の「反テロ戦争」の一環とされ「テロリスト」を殺害した戦果を誇示するようになった。ウイグル族の憎しみをかき立てたのは想像に難くない。
北京では五輪以降、テロでメンツが傷ついた胡錦濤政権が新疆で独立勢力への一大掃討作戦に出るという観測が強まっている。
テロ封じ込めに失敗した武断路線を一層強めるもので新疆情勢の泥沼化を招きかねない。五輪で中国が高まることを期待する国際的威信も揺るがすことになろう。
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