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【社説】

WTO対策 無為に時間を費やすな

2008年8月16日

 WTOのラミー事務局長がインドを訪問した。決裂したドーハ・ラウンド再開への地ならしだ。再開すれば日本はあらためて農産物の一段の市場開放を迫られる。農業改革の先送りは許されない。

 世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は米国とインド、中国との対立が解けず決裂した。それから二週間余り、再開への準備は予想以上に早かった。七年間に及ぶ交渉で輪郭を現した新貿易ルールの土台を崩してはならない。ラミー氏の思いだろう。

 インドとの協議で再開のおぜん立てが整うわけではない。米大統領選を考慮すると本格交渉は早くて来春だろう。だからと言って日本は悠長を決め込んでいられる状況ではない。決裂で生じた猶予期間を農業改革に充てるときだ。

 太田誠一農林水産相も「交渉は白紙に戻ったわけでなく、将来、合意することを考えておかねばならない」と語り、当面の対策として農地と農業の担い手確保を挙げた。世界的に不足傾向が続く穀物需給を視野に入れ、実現への青写真を早急に描くよう求めたい。

 日本の農業従事者は三百三十万人、その六割を六十五歳以上が占めている。耕作放棄地が増える一方なのに、農業者全体が高齢化しているので借り手も現れない。その現実を見据えて、農地を使いやすくし、農業に就きたい人を誘導する政策の立案が急務だ。

 二〇〇五年、農地の貸し付け方式で企業の参入が認められ、三百近い法人が農業経営に加わった。しかし、企業に貸すと返してもらえないという農地所有者が多く、貸し借りはさほど進んでいない。

 定期借地権を明記した農地制度を整備して懸念を払拭(ふっしょく)し、企業を農業の担い手に迎えてコスト削減を図るべきだ。昨年からのねじれ国会を機に農業改革が先送りされている現実を直視してほしい。

 WTO交渉で日本は関税の下げ幅を緩和できる重要品目を大幅に絞るよう迫られた。妥結しても、その代償として輸入拡大が義務付けられ、コメだけでも現在の年七十七万トンから百万トン以上へと上積みされる見通しだ。

 日本はWTOの主要加盟国として世界経済の浮揚を促す自由貿易拡大の旗を振る一方で、その自由貿易がもたらす食料自給率の押し下げ圧力を抑えるという二律背反の課題を突きつけられている。

 ラミー氏の訪印は、農業改革でその克服を−という日本向けのシグナルととらえるべきだ。

 

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