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2008年8月16日

◎金沢の墓所調査 「歴史都市」に課せられた責任

 金沢市の野田山・前田家墓所に続き、加賀八家墓所でも国史跡指定に向けた調査が本格 化することになった。市が発足させた調査指導委員会では、八家だけでなく、それぞれの家臣団まで調査範囲を広げる意見も出たが、その土地で歴史を刻んだ人物の墓所を大切にし、文化財的な価値を明らかにして整備を進めることは「歴史都市」に課せられた責任と言ってよいだろう。

 都市計画の第一人者、石川栄耀(ひであき)は著書「都市」の中で、「名都」のつくり 方に関して「お互いの深い縁のつながりを思うようにする事。それは歴史を味わわせればよい」と述べている。外国では墓を訪ねても、その前をすぐに去ることができないよう歴史を強調した工夫がなされていることを紹介し、その土地で足跡を残した偉人に「追慕の情」を示し、いつまでも忘れないようにしておくことが「名都」の条件だと強調する。

 金沢市は国土交通省が今年度に創設した歴史都市支援制度の認定第一号を目指している 。古い建造物や町並みを残すだけでなく、墓所の調査、整備を通じて多彩な歴史群像を顕彰することで歴史都市としての風格も一層高まっていくだろう。

 前田家墓所はすでに国史跡の申請がされ、今年度内の指定が見込まれている。文化財的 な価値に光が当たったのは「城下町金沢」の世界遺産登録運動が始まってからだが、それまでは「都市の財産」という位置づけは必ずしも十分ではなかった。加賀八家墓所も同様である。

 加賀八家のうち六家の墓所は、野田山の前田家墓所を取り囲むように配置され、市は藩 政期の職階制や墓制を示す貴重な空間と位置づける。調査では野田山以外の二家の墓所も含め、測量や銘文解読、菩提寺の資料収集などが進められる。「加賀に殿様九人あり」と言われ、城下に小藩を組み込んだような「複合城下町」としての金沢の都市像にも迫る調査となろう。

 野田山や寺院群には多くの偉人の墓がある。藩主や重臣の墓所調査を機に、他の墓所に も目を向け、市民が気軽に足を運び、歴史のつながりに思いをはせることができるような工夫も考えていきたい。

◎配当非課税案 市場活性化につなげたい

 自民党の麻生太郎幹事長が景気刺激策として提唱した三百万円以下の株式投資の配当を 非課税にする案は、株式市場への資金流入を促し、個人投資家を育てる効果が期待できる。株式や投資信託の購入者は、年収四百万円から五百万円の中堅所得層が多く、「金持ち優遇」の批判は当たらない。「証券マル優制度」を通じて長期保有の日本人株主を増やし、市場の活性化を促したい。

 株式配当課税は、本来20%とされている税率が軽減措置により、現在、10%になっ ている。〇八年度末に税率は本則の20%に戻されるが、配当収入のうち年百万円以下の分については軽減税率が二年延長される予定である。麻生幹事長の提案は、かつての「マル優制度」のように、国民に分かりやすくアピールできる新たな非課税制度を設け、貯蓄から投資への流れを後押しする狙いがある。

 福田康夫首相もこの案に賛同し、茂木敏充金融担当相に証券税制の見直しを指示したが 、欧米に比べて大きく遅れている株式市場のテコ入れは必要だ。特に配当を得ながら株を長期保有する個人投資家の層を厚くしたい。三百万円以下という非課税枠の妥当性について論議を尽くしてほしい。

 株式配当の一部非課税化は、投資家だけが得をするかのような印象を与えるが、株式市 場に集まる資金は日本企業の活動を支え、日本経済を活性化させる。投資信託はもとより公的年金の一部も株式市場で運用されているのであり、国内市場がより充実すれば、海外からの投資も増えるだろう。

 ただ、東京株式市場は、外国人投資家の比率が増えており、思惑的な短期売買も目立っ ているという。日本は千五百兆円の個人金融資産を持ちながら、株式と投資信託を合わせた残高は14%程度に過ぎず、国内市場の主導権をヘッジファンドなど外国勢に握られているとの見方もある。

 現在、株式市場は世界的なインフレと景気後退の影響で、株価の低迷が続いている。リ スクのある投資を避けたくなるこんなときこそ、市場の育成策をしっかりやってほしい。


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