2008年03月05日
韓国次期大統領とキリスト教
太田述正コラム#2338(2008.2.1)
<韓国次期大統領とキリスト教>(2008.3.5公開)
1 始めに
李明博(Lee Myung-bak。1941年〜)が2月25日、韓国の新しい大統領に就任します。
これから幾度となく、李はこのコラムに登場することになるでしょうが、皮切りにキリスト教徒としての李をとりあげることにしました。
2 韓国のキリスト教
キリスト教は19世紀末に朝鮮半島に入ってきたのですが、本格的布教が始まったのは20世紀に入ってからです。
日本からの独立運動の先頭に立ったキリスト教徒が少なくなく、また、朝鮮戦争の後には米国の教会関係者が食糧援助や病院・学校の設立を行い、軍事独裁政権下では、キリスト教徒で民主化闘争に身を投じる者が少なくなく、更には1997〜98年のアジア金融危機の際には金製品や宝飾品を自発的に供出したキリスト教徒が続出したことから、韓国の人々は、総じてキリスト教に対しては良い印象を抱いて来ました。
2005年12月の調査によれば、韓国の総人口4,700万人のうち、53%が何らかの宗教を信じており、そのうち仏教徒が22.8%、プロテスタントが18.3%、カトリックが10.9%であり、キリスト教徒の勢力は今や大変なものです。
1960年当時には、キリスト教徒は100万人未満に過ぎなかったのに、2005年現在では1,900万人以上となっており、急速に増えてきていることが分かります。
しかも、キリスト教徒は極めて宗教的に活発であり、その35%が宗教は生活において極めて重要であると考えているのに対し、仏教徒ではそう考えている者は3%に過ぎません。週1日以上教会に行っているキリスト教徒は77%にも達しています。
そのキリスト教徒は、経済界では、2007年現在、韓国の10大企業の会長職すべてを占めていますし、政界では、一院制の韓国議会の議席の半数以上を占めていて、現ノムヒョン政権では、ノムヒョン大統領自身、一応カトリックであるほか、例えば統一省長官が牧師ですし、今回の大統領選挙でも、10人の候補のうち、カトリックだけで6人もいたのに対し仏教徒はゼロでした。
ここまでキリスト教徒の勢力が増大してくると、非キリスト教徒の間で反感が出てくるのは当然であり、昨年は韓国で、反キリスト教感情が大きな高まりを見せました。
あるプロテスタントの教会に属する23人がアフガニスタンに布教を究極的とする旅行に出かけ、反政府分子に捕らわれ、うち2人が殺され、21人がやっとのことで帰国することができた事件が起こったからです。
この時は、彼らが帰国してからも数ヶ月にわたってこの教会の前で抗議のピケが続きました。
3 李明博・韓国次期大統領とキリスト教
こうした中で、李明博が大統領選挙に勝利したのです。
李は、韓国最大の教会の一つであるソマン(Somang)プレスビテリアン教会の長老(elder)であり、その妻は同教会の執事(deaconess)であって、韓国のキリスト教徒の7〜8割が李に投票したとされています。
この李は、ヒュンダイ(現代)建設の社長をしていた時、日曜ごとにこの教会の駐車場のガイド役を務めることで、1995年、同教会の長老に選出されています。
そして2004年5月31日、ソウル市長をしていた李は、「私はソウル市が神によって治められた聖なる場所であると宣言する。ソウルの市民は神の民であり、ソウルの教会やキリスト教徒はソウルを守る精神的警邏隊なのだ。・・私は今ソウルを主に捧げる。」と演説しました。
昨年、ハンナラ党(Grand National Party)で大統領候補に指名された直後に、彼が最初に訪問したのは朝鮮戦争の時の戦死者を埋葬している国立墓地でしたが、次に訪問したのは韓国キリスト教評議会(Christian Council of Korea =CCK)であったのは、いかにも李らしいと言わざるをえません。
(以上、
http://www.atimes.com/atimes/Korea/JB01Dg01.html、
http://www.christianpost.com/article/20071213/30491_S._Korea_Presidential_Election_Highlights_Christian_Influence.htm、
http://christiantoday.co.jp/mission-news-891.html
(いずれも2月1日アクセス)による。)
4 終わりに
李は大阪生まれですが、2006年1月のダボス会議で、「一部アジアの政治指導者は、過去の歴史に縛られて、国家間の緊張を高め、未来を暗くしている」と盧武鉉政権を批判する発言をしたり、2008年1月17日のソウルでの外国メディアと会見で、「私自身は新しい成熟した韓日関係のために、『謝罪しろ』『反省しろ』とは言いたくない」と発言したこと(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%8E%E6%98%8E%E5%8D%9A
。2月1日アクセス)は高く評価したいと思います。
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<韓国次期大統領とキリスト教>(2008.3.5公開)
1 始めに
李明博(Lee Myung-bak。1941年〜)が2月25日、韓国の新しい大統領に就任します。
これから幾度となく、李はこのコラムに登場することになるでしょうが、皮切りにキリスト教徒としての李をとりあげることにしました。
2 韓国のキリスト教
キリスト教は19世紀末に朝鮮半島に入ってきたのですが、本格的布教が始まったのは20世紀に入ってからです。
日本からの独立運動の先頭に立ったキリスト教徒が少なくなく、また、朝鮮戦争の後には米国の教会関係者が食糧援助や病院・学校の設立を行い、軍事独裁政権下では、キリスト教徒で民主化闘争に身を投じる者が少なくなく、更には1997〜98年のアジア金融危機の際には金製品や宝飾品を自発的に供出したキリスト教徒が続出したことから、韓国の人々は、総じてキリスト教に対しては良い印象を抱いて来ました。
2005年12月の調査によれば、韓国の総人口4,700万人のうち、53%が何らかの宗教を信じており、そのうち仏教徒が22.8%、プロテスタントが18.3%、カトリックが10.9%であり、キリスト教徒の勢力は今や大変なものです。
1960年当時には、キリスト教徒は100万人未満に過ぎなかったのに、2005年現在では1,900万人以上となっており、急速に増えてきていることが分かります。
しかも、キリスト教徒は極めて宗教的に活発であり、その35%が宗教は生活において極めて重要であると考えているのに対し、仏教徒ではそう考えている者は3%に過ぎません。週1日以上教会に行っているキリスト教徒は77%にも達しています。
そのキリスト教徒は、経済界では、2007年現在、韓国の10大企業の会長職すべてを占めていますし、政界では、一院制の韓国議会の議席の半数以上を占めていて、現ノムヒョン政権では、ノムヒョン大統領自身、一応カトリックであるほか、例えば統一省長官が牧師ですし、今回の大統領選挙でも、10人の候補のうち、カトリックだけで6人もいたのに対し仏教徒はゼロでした。
ここまでキリスト教徒の勢力が増大してくると、非キリスト教徒の間で反感が出てくるのは当然であり、昨年は韓国で、反キリスト教感情が大きな高まりを見せました。
あるプロテスタントの教会に属する23人がアフガニスタンに布教を究極的とする旅行に出かけ、反政府分子に捕らわれ、うち2人が殺され、21人がやっとのことで帰国することができた事件が起こったからです。
この時は、彼らが帰国してからも数ヶ月にわたってこの教会の前で抗議のピケが続きました。
3 李明博・韓国次期大統領とキリスト教
こうした中で、李明博が大統領選挙に勝利したのです。
李は、韓国最大の教会の一つであるソマン(Somang)プレスビテリアン教会の長老(elder)であり、その妻は同教会の執事(deaconess)であって、韓国のキリスト教徒の7〜8割が李に投票したとされています。
この李は、ヒュンダイ(現代)建設の社長をしていた時、日曜ごとにこの教会の駐車場のガイド役を務めることで、1995年、同教会の長老に選出されています。
そして2004年5月31日、ソウル市長をしていた李は、「私はソウル市が神によって治められた聖なる場所であると宣言する。ソウルの市民は神の民であり、ソウルの教会やキリスト教徒はソウルを守る精神的警邏隊なのだ。・・私は今ソウルを主に捧げる。」と演説しました。
昨年、ハンナラ党(Grand National Party)で大統領候補に指名された直後に、彼が最初に訪問したのは朝鮮戦争の時の戦死者を埋葬している国立墓地でしたが、次に訪問したのは韓国キリスト教評議会(Christian Council of Korea =CCK)であったのは、いかにも李らしいと言わざるをえません。
(以上、
http://www.atimes.com/atimes/Korea/JB01Dg01.html、
http://www.christianpost.com/article/20071213/30491_S._Korea_Presidential_Election_Highlights_Christian_Influence.htm、
http://christiantoday.co.jp/mission-news-891.html
(いずれも2月1日アクセス)による。)
4 終わりに
李は大阪生まれですが、2006年1月のダボス会議で、「一部アジアの政治指導者は、過去の歴史に縛られて、国家間の緊張を高め、未来を暗くしている」と盧武鉉政権を批判する発言をしたり、2008年1月17日のソウルでの外国メディアと会見で、「私自身は新しい成熟した韓日関係のために、『謝罪しろ』『反省しろ』とは言いたくない」と発言したこと(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%8E%E6%98%8E%E5%8D%9A
。2月1日アクセス)は高く評価したいと思います。
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この記事へのコメント
1. Posted by michisuzu(mixi)
2008年03月05日 11:02
李さんは苦労して叩上げただけあって一言が重いですね。
理想ばっかりで誰も付いて来なかった前大統領とはずいぶん違いますね。
理想ばっかりで誰も付いて来なかった前大統領とはずいぶん違いますね。
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