2006年11月21日

韓国での按摩騒動(その2)

太田述正コラム#1521(2006.11.21)
<韓国での按摩騒動(その2)>

(2)韓国での按摩専業制をめぐる騒動

 米軍は戦後、日本を占領しましたが、日本では、盲人には高い技術が必要な按摩等はできないとして盲人が按摩等を行うことを禁止する(
http://www.asiadisability.com/~yuki/117.html
前掲)のですが、盲人の運動により1947年に新法ができ、再び盲人が按摩等を行うことができるようになって現在に至っています。
 (以下、特に断っていない限り
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-blind20nov20,1,4116513,print.story?coll=la-headlines-world
による。)
 米軍は南朝鮮も占領しますが、そちらでは、按摩の効用そのものを否定し、盲人による按摩専業制どころか、按摩の免許制度そのものを廃止してしまいます。
 韓国で盲人による按摩専業制が復活するのは、朴正熙大統領の時の1963年です。
 その韓国で、一騒動が持ち上がっています。
 現在韓国には盲人が18万人おり、そのうち6,000人が按摩を行っています。
 ところが、晴眼者でヤミでマッサージを行っている者が30万人もいて、警察は目をつぶっているのですが、彼らは、按摩専業制は晴眼者の職業選択の自由を奪うものであって憲法違反であると主張しています。
 子供の学校に出す書類の父兄の職業欄に本当の職業を書けない、といった状況を何とかしてくれというわけです。しかも彼らは、マッサージは美容やセラピー目的であって、按摩とは競合しない、とも主張しています。
 盲人で按摩免許を持っている者は、売春業者に名義貸しをしたり、形だけ按摩をしてすぐ正規の按摩代金をとり、売春婦にバトンタッチする者もいる、という指摘もなされています。
 当然、盲人で按摩を行っている人々は反発しています。
 そこへ、今年5月、韓国の憲法裁判所は、按摩専業制を定めた法律は違憲であるという判決を行ったから大変です。
 盲人達は抗議行動を始め、ビルから飛び降りたり、地下鉄の線路に飛び込んだりして、既に二人死亡者が出ています。また、数百人が連日、韓国議会の前でシュプレヒコールをあげており、中には漢江の橋の上に集まって、杖を打ち付けたり、川の中に飛び込み、救助される者も出ています。
 これに議会が折れ、医療法の中に、改めて盲人による按摩専業制規定を設けました。
 これに対し、晴顔者のマッサージ師達320人が、再度憲法裁判所に訴訟を提起しました。

3 感想

 思ったことは三つあります。

 第一に、障害者に対する日本人の優しさです。
 按摩を行っている韓国の盲人達が特権の剥奪にかくも激しく抵抗するのは、韓国人が盲人を含む障害者に対して、余りにも冷たい(ロサンゼルスタイムス上掲)ことも大きな理由です。

 第二に、日本の植民地統治の正の遺産がここにもある、ということです。 
 日本本土では廃止した按摩専業制を朝鮮半島にあえて導入したのは、現在の韓国の盲人達が主張するように、日本人の按摩師が朝鮮半島ではほとんどいなかったので、やむをえず韓国人に自分達の按摩をやらせようとした(ロサンゼルスタイムス上掲)、ということではなく、差別されていた韓国の盲人救済のためであったに違いありません。日本当局は、朝鮮半島に、盲学校を多数つくってそこで按摩・鍼灸教育を含む教育を熱心に行いました(ロサンゼルスタイムス上掲)。現在の韓国の盲人達が、日本の統治にも良いことがあったと言っている(ロサンゼルスタイムス)のは本心でしょう。

 第三に、今回の韓国の盲人達の暴力的な抗議活動を見るにつけ、明治維新期に特権を剥奪された際、当時の日本の盲人達が激しい抗議活動を行った形跡がないのは、盲人を含む当時の日本人一般が、盲人を含む現在の韓国の人々とは違って、世の中の趨勢を理解しようとする意欲と能力を持っており、かつ自分達の政府というものを基本的に信頼していたからに違いない、ということです。

(完)



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