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【国際】

「文化の壁」で分断 五輪コース、美しく整備

2008年7月31日 朝刊

五輪マラソンコース(手前)と壁で仕切られた北京市の古い街並み=川北真三撮影

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 【北京=鬼木洋一】五輪マラソンコースの両側に、高さ3メートルほどの長い壁が連なる。向こう側にある崩れかけた家屋やがれきの山を隠すように昨年夏、建てられた。名付けて「文化の壁」。五輪で世界中に放映されるため、美観を損ねる風景を排除しようとする政府の意図が垣間見える。

 壁はスタート地点の天安門広場から世界遺産の天壇公園に向かう途中、約2キロの直線道路にある。

 壁と道路の間には緑地が整備され、五輪を記念する像が立つ。壁には「一つの世界 一つの夢」のスローガン。だが、一歩向こう側に足を踏み入れると別世界。狭い路地が迷路のように入り組む。

 れんが造りの古い家から出てきた英長海さん(51)は「昨年3月から区政府に立ち退きを迫られている。でも貧乏だし、補償金も不十分。引っ越せないよ」と話す。妻と娘がいるが、6年前にビルの管理人を辞めてから定職がない。

 隣の家は壊され、がれきに。そんな廃虚があちこちにある。「金のある人は出て行く。残っているのは、わしらのような貧しい家族ばかりだ」

 こうした古い街並みは「胡同(フートン)」と呼ばれ、北京市内に点在する。一部は観光スポットとして人気もあるが、五輪に向けた再開発で次々と取り壊されてきた。

 「マラソンを見るか?」と英さんに尋ねると、つぶやいた。「見たって自分の問題は何も解決しない。だから見ないよ」

 

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