後期高齢者医療制度(75歳以上)の混乱が続いている。保険料通知書が2度、3度と届いたり軽減措置が急きょ取られたりといった事情もあるが、混乱のそもそもの背景として、高齢者に分かりやすいように、その身になって考えたとは思えない国、自治体側の事務的な対応がありそうだ。【有田浩子】
●夫婦に6通
東京23区に住む84歳と83歳の夫婦の元に7月、夫婦別々に計6通の厚い封書が3日連続で送られてきた。
1通目に入っていたのは、今年度の保険料が確定したことを知らせる広報紙。広域連合と区と、同様のものが別個に同封されていた。他に政府・与党が6月に決定した新たな軽減措置や、保険料を年金天引きから口座振替に変更できることのお知らせなどが入っていた。2通目は新たな保険証。3通目は窓口負担割合の判定に関する書類だった。
この夫婦は、保険証に医療費の窓口負担が現役世代並みの「3割」と明記され、申請により「1割」に変わるケースだった。3通目がその説明だったが、理解できなかった。そもそも書類が高齢者を想定したとは思えない量で、その多さに嫌気がさした。夫妻の場合は埼玉県に住む孫(28)の手助けで手続きをとり、事なきを得たが、高齢者が気付かずに損をしているケースもありそうだ。
●役所用語
新制度で不評なのが年金天引き。15日は3回目の天引きが行われるが、書類では「特別徴収」と「普通徴収」という法律用語が使われている。「特別」は年金天引き、「普通」は納付書や口座振替で納付することを指すが、そうした説明がないこともあり分かりにくい。
運営主体として、都道府県ごとに全市町村が加入して作られた「広域連合」も混乱要因。保険料額を決めるのが広域連合で、保険料を集めるのは市町村と役割分担しているが、都道府県庁の一組織との誤解もあり、問い合わせの電話が錯綜(さくそう)してかかっている。
福田康夫首相の指示で呼び名が土壇場で「長寿医療制度」と変わったことも、制度が二つあるという勘違いにつながっている。
●世帯と個人
京都府の主婦(75)は軽減措置対策が決まり、収入が障害基礎年金のみの夫(75)は対象になると期待していた。保険証は個人ごとに配られており、軽減も個人ごとに行われると考えたためだ。
だが定額負担の「均等割り」は世帯単位で判定される。女性も別に年金を受け取っており、通知を見ると軽減対象にはならなかった。
一方、個人単位で判定される所得比例の「所得割り」について女性のみ軽減される見通しで、こうした基準の異なる判断が混在していることが制度の理解を難しいものにしている。
毎日新聞 2008年8月15日 東京朝刊